第207回演奏会のご案内
夭折の天才音楽家
1934年(昭和9年)25歳の日本人がベルリンフィルハーモニー管弦楽団を指揮し、自作を含むコンサートは大成功を収めます。
その青年の名は「貴志康一」。ストラディヴァリウスを所有するヴァイオリニストにして作曲家、指揮者。映画製作や小説を書くなどマルチな芸術家でした。大阪の資産家に生まれ、甲南高等学校からジュネーヴ音楽院に留学。卒業後はベルリンで学び作曲をヒンデミットに師事、フルトヴェングラーとも親交がありました。帰国後は新交響楽団(現NHK交響楽団)を指揮するなどスター指揮者として注目され、また日本文化とヨーローッパ文化の掛橋として活躍しました。多忙な音楽活動の中で虫垂炎を悪化させ、1937年28歳の若さでこの世を去ります。
第二次世界大戦後、貴志の活躍が脚光を浴びることは少なかったのですが、指揮者小松一彦により貴志の作品が演奏され高い評価を受けるようになりました。今年は貴志の生誕100年にあたります。今回の演奏会では、ベルリンフィルで自作を演奏した中の1つである「日本スケッチ」を演奏します。市場、夜曲、面、祭りという日本の風景にまつわる4曲からなる組曲で、豊かなメロディと洗練されたハーモニーを持ち、日本的な要素と西洋文化が融合した曲といえるでしょう。
いっしょに演奏するのは、貴志のベルリン時代の師であるヒンデミットの作品です。「交響的変容」は、ウェーバーの4つの作品から主題が採られ、形を変えて展開して行く楽しい曲で、ヒンデミットの交響作品の中でも最も演奏される機会の多い作品です。
ショスタコーヴィチの「第五」
新響はショスタコーヴィチの交響曲を小松一彦の指揮で、50周年記念演奏会で第8番、芥川没後20年記念演奏会で第4番と演奏してきましたが、いよいよ今回はもっとも人気のある代表作、第5番の登場となります。ベートーヴェンの第5番「運命」と同様に、この第五も特別な意味のある存在かもしれません。
作曲された1937年、スターリン独裁体制の旧ソ連では大粛清が行われていました。身の危険を感じたショスタコーヴィチは、交響曲第4番を初演前に撤回します。その直後に作曲された第5番は聴衆を熱狂させ大成功を収め、ショスタコーヴィチは名誉を回復します。
体制に迎合したとも実は批判や皮肉が込められているとも言われますが、古典的な構成の中に人間の内面が表現されたこの曲は、美しく壮大、そして聴く者の魂を揺さぶります。
どうぞご期待下さい!