第215回演奏会のご案内
2010~2011年は「マーラー・イヤー」
今年はウィーンで活躍した大作曲家マーラー(1860-1911)の没後100年、昨年は生誕150年にあたります。マーラーの作品が演奏される頻度が増えたり、関連する映画や書籍が発表されるなど、国内外で盛り上がっています。新響は1979年から10年にわたってマーラー交響曲全曲シリーズに取り組み、最近では高関と第9番、第6番、第7番と演奏してきました。マーラー・イヤーの締めくくりとなる今回の演奏会では、最も人気の高い第5番を演奏します。
アルマへのラブレター
交響曲第5番が作曲された1902年、マーラーはウィーン宮廷歌劇場監督として地位も名誉も得て、私生活でもアルマと結婚し長女が誕生します。まさに人生の絶頂期に作られたこの曲は、それまでの第2番~第4番が声楽入りの作品なのに対し、純器楽によるより新しい表現へと発展させた、彼の成熟期の代表作となりました。5楽章からなる大作ですが、中でも弦楽器とハープだけで演奏される第4楽章アダージェット(小さなアダージョの意)は世界でもっとも甘美なアダージョの一つで、マーラーが19歳年下のアルマへの愛情を表現した曲と言われています。実際にアルマは交響曲第5番のスケッチからフルスコアを作成する仕事を手伝っていました。
大ヒットしたCD『アダージョ・カラヤン』や映画『ヴェニスに死す』で有名ですが、日本では伊丹十三監督の『タンポポ』で使われていて聴き覚えのある方も多いでしょう。
ロマン主義から無調音楽へ
マーラーが活躍していた頃のウィーンはいわゆる世紀末ウィーンと呼ばれ、文化が熟し芸術の各分野で新たな飛躍を遂げました。アルマは才能と美貌に恵まれ、画家クリムトなどの芸術家を魅了したウィーン社交界の花でした。そのアルマと結婚してマーラーの交友関係も変わり、新しい芸術を目指す分離派と交流を持つようになります。音楽家ではアルマの作曲の師であるツェムリンスキーとその弟子のシェーンベルクがマーラーの家に出入りして音楽談義をするようになりました。
シェーンベルクは、初期はマーラーと同様に後期ロマン派の作風でしたが、新しい方法論を模索し無調音楽へ、そしてさらに無調を理論化した十二音音楽を確立します。当時そのような前衛音楽は聴衆に受け入れられませんでしたが、マーラーは支援し擁護し続けました。「シェーンベルクの音楽はわからない。でも彼は若い、おそらく彼が正しいのだろう。」
シェーンベルクが無調へと向かった最初の管弦楽作品が「5つの管弦楽曲」です。20世紀以降の現代音楽の先駆的存在で、のちの作曲家に大きな影響を与えました。現代音楽というと難解で堅苦しいイメージがありますが、この作品はメロディがわかりやすく響きの新鮮な聴きやすい曲です。
どうぞお楽しみに!