第243回演奏会のご案内
偉大なワグネリアン~ブルックナー
新交響楽団と飯守泰次郎氏との初共演は1993年。ちょうど日本に拠点を移した頃ですが、それまではドイツを中心に歌劇場で活躍し、ワーグナー芸術の総本山であるバイロイト音楽祭の助手を長年務めました。2014年から新国立劇場のオペラ芸術監督を務め、在任中に「ローエングリン」「ニーベルングの指環」などワーグナーの7つの作品を自ら指揮しました。
ワーグナー信奉者はワグネリアンと呼ばれ著名人のワグネリアンが多く存在しますが、作曲家でワグネリアンと言えばブルックナーが筆頭かもしれません。ワーグナーは歌劇・楽劇を多く残し交響曲は1曲のみ。政治力を持ち自信家で女性関係も激しかったのに対し、ブルックナーは交響曲と宗教曲が中心で、敬虔なクリスチャンで独身。正反対なのに、ブルックナーはワーグナーの音楽を愛していました。
ワーグナー最後のロマンティック・オペラ
「ローエングリン」はワーグナーの作品の中で最も人気のある曲の一つで、世継ぎである弟殺しの疑いをかけられたエルザを、白鳥の騎士が名前と素性を訊ねないことを条件に助けますが、結婚式後にエルザはその禁断の質問をしてしまい、騎士は去っていくという物語です。この作品の後、ワーグナーは「楽劇」という音楽と演劇が融合した概念を提唱しました。
今回はその中の特に有名な2曲を演奏します。第1幕への前奏曲は、透明感のある柔らかな曲。第3幕への前奏曲は、勇壮で華やかな曲。歌劇ではこの後に有名な結婚行進曲が合唱を伴って演奏されます。最後には登場人物のほとんどが死んでしまう悲劇ですが、音楽は美しく心にしみます。
ブルックナーの出世作~交響曲第7番
ブルックナーは劇場建設中のバイロイトに出向いてワーグナーを訪問し、交響曲第2番と第3番の総譜を見せ、興味を持ってもらえた第3番をワーグナーに献呈しました。ブルックナー自身が指揮した初演は失敗に終わり、その後の交響曲も初演後ほとんど再演されなかったのですが、第7番は大成功を収めヨーロッパ各地やニューヨークでも演奏され、ブルックナーの名声は広まりました。
第2楽章の執筆中にワーグナーが危篤となり、ワーグナーの葬送行進曲として書かれましたが、死の知らせを受けテューバ群の荘厳な響きで始まるコーダを付け足しました。この曲でブルックナーは初めてワーグナー・テューバを使用しました。ワーグナーが「ニーベルングの指環」のために開発し、テューバを中心とした新たな音色を持つ楽器群をホルン奏者が担当できるようにした物で、「指環」での使い方を踏襲し4本のワーグナー・テューバと通常のテューバで和音を奏でます。ブルックナー自身の葬儀の際も、このアダージョが金管アンサンブルに編曲され演奏されました。
どうぞお楽しみに! (H.O.)