第244回演奏会のご案内
2018年まで新国立劇場芸術監督を務め、世界トップレベルのワーグナー公演の数々を自らの指揮で成し遂げた飯守泰次郎によるワーグナーです。新交響楽団は1993年から共演を重ねており、これまでも「ワルキューレ」第一幕、「ニーベルングの指輪」抜粋、2006年に「トリスタンとイゾルデ」抜粋を取り上げました。それらの公演は新響演奏史に残る名演として語り継がれています。このたびソリストをお呼びして久しぶりに本格的にワーグナーを取り上げるにあたり、新国立劇場では取り上げなかった「トリスタンとイゾルデ」を飯守氏が選ばれたことには大きな意味があるに違いありません。そしてイゾルデには、二期会の公演で同役を歌い絶賛を浴び、新国立劇場のワーグナー公演でも存在感を見せつけた池田香織をはじめ、現在日本で望みうる最高のソリストをお迎えいたします。
「トリスタンとイゾルデ」
ワーグナーと聞いてどのような曲を思い浮かべられるでしょうか。映画「地獄の黙示録」で使用された勇ましい「ワルキューレの騎行」、お馴染みの「結婚行進曲」や吹奏楽経験者なら知っている「エルザの聖堂への入場」で知られる「ローエングリン」、そして式典などでよく演奏される堂々とした「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲など、耳にする機会が多いと思います。今回取り上げる「トリスタンとイゾルデ」はその一部が「前奏曲と愛の死」としてオーケストラだけでも取り上げられます。中世の説話「トリスタン物語」をもとにしながらワーグナーが大胆に脚色して自ら台本を作成し、それに音楽をつけました。オペラで演じられる部分のストーリーは非常に単純で、男女の主人公トリスタンとイゾルデの愛を極限まで凝縮したものとなっています。台本はワーグナーにありがちな“哲学的な”非常に理屈っぽいものなのですが、そこにつけられた音楽はたいへんに官能的な魅力にあふれており、聴く者を陶酔の境地に誘います。ワーグナーは無調音楽を志向したわけではないのに、官能性や劇的効果を極限まで追求した結果、調性音楽の枠を踏み越えたかのような革新的なものとなっています。今回は主人公二人の愛の場面をたっぷり味わっていただけるよう第二幕はカットなし、演奏会形式ではありますがすべての役に個別のソリストを配してお届けします。
飯守泰次郎のワーグナー
飯守氏はいまさら言うまでもなく、ワーグナー指揮の第一人者として国内外に名を馳せています。その演奏は、骨太の分厚い響きで重要な示導動機をたっぷりと鳴らす、あまり聴くことができなくなった伝統的なワーグナー演奏を思わせます。音の出だしやリズムを指揮棒で強制的に合わせることを嫌い、音楽の必然のタイミングを奏者が感じとって自ずと合わせてくることを求め、また和声の美しさを非常に厳しく追及されます。アマチュアの新交響楽団に対しても容赦ありません。そのような厳しいリハーサルを経ることで、ワーグナーの最高傑作ともいわれる「トリスタンとイゾルデ」の陶酔の境地を出現させたいと考えています。どうかご期待ください。(H.S.)