ルートヴィヒ2世-熱烈なワグネリアン
バイエルン国王ルートヴィヒ2世とワーグナーの関係はあまりにも有名です。ワーグナーは敵対者も多く、経済的に困窮していました。ワーグナーを崇拝していたルートヴィヒ2世は1865年ミュンヘン近郊のシュタルンベルク湖畔の邸宅を彼に提供します。このまさに同じ年に初演されたのが今回演奏する「トリスタンとイゾルデ」です。ルートヴィヒ2世は3つの壮麗な城を建てました。現在バイエルン州の主要な観光資源となり、多くの日本人も訪れるこれらの城はワーグナーを知らない人にも充分楽しめますが、各部屋の壁や洞窟などに彼のオペラの場面を描いたものが多くあり、ファンにはたまらないものとなっています。昨今は世界遺産を訪れる人も年々増えていますが、ヨーロッパの豪華絢爛な城は人気も高く、皆さんもさまざまな場所を訪れているでしょう。なんと言っても人気のあるのは、ディズニーランドのシンデレラ城のモデルともなったノイシュヴァンシュタイン城、緑と湖に囲まれたこの城は季節や天候を問わず様々な幻想美を楽しませてくれます。絶好のポイントは城の裏手にあるマリエン橋から見た姿。ただし、高所恐怖症の方にはちときついかもしれません。山の気まぐれな天候もあり、なかなか雲ひとつない快晴には恵まれないようですが、我々がベルリン演奏旅行の後、何人かの団員で訪れた際にはまさしく空は真っ青で日頃の行いの良さが証明された気になって喜んだものでした。絵葉書やガイドブックで見る雪の中の城も、仄暗く憂鬱に立ち籠める霧にまかれた風景もいいですが、自分がそこにいることを考えるといい天候に恵まれるに越したことはありませんよね。日本名「白鳥城」がまさにぴったりくるとても美しい城です。まだ行ったことのない方はすぐにでも旅行を計画すべし。ユーロディズニーランドが受けない理由がわかります。ヨーロッパには正真正銘の古城がたくさんあるんですから。このノイシュヴァンシュタイン城のすぐ下には黄色いホーエンシュヴァンガウ城もあり、一箇所で二度おいしい場所です。
さて、二番目の城はリンダーホーフ城。ノイシュヴァンシュタイン城の建設中にとりかかりましたが、実はこちらが先に、しかも王の存命中に完成した唯一の城です。こちらは、オペラの一場面を再現した人造の鍾乳洞があります。ルートヴィヒ2世は人間嫌いで、湖に金色の会の小舟を浮かべ、白鳥をはべらせ、まさに「ローエングリン」の白鳥の騎士の気分を味わっていたのでしょうか。
最後の城は、ヘレンキームゼー城。名前の通り、キーム湖に浮かぶ島にあります。多少行きにくいのですが、太陽王ルイ14世のヴェルサイユ宮殿をまねて作ったことで有名です。プリーンという駅から湖畔の遊覧船乗り場で島に渡ります。島についてからもすぐに城があるわけではなく、森の中を歩いていかなければなりません。案内図にしたがって歩いていくと、突然開けた場所に庭園が現われ、美しいヘレンキームゼー城が見えます。中は未完なこともあって、国庫を枯渇させるほどに豪華な鏡の広間から、順路をたどっていくと最後にはがらんとした部屋もあり、国を傾けた王の行く末を見るようで複雑な気分になりました。王はさらに第4の城ファルケンシュタイン城までも計画しており、この城の絵はノイシュヴァンシュタイン城のある部屋で見ることができます。王位を追われたルートヴィヒ2世は前に述べたシュタルンベルク湖で謎に満ちた非業の死を遂げます。これほどまでに王が心酔したワーグナーの音楽、そのある意味での頂点とも言える「トリスタンとイゾルデ」を抜粋ではありますが、是非演奏会にお越しになり、楽しんでいただきたいと切に願うものです。