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譜面の思い出

笠川淳(Vn)

 ヴァイオリン・パートの笠川と申します。新響には入団6年目になりますが、昨年まで3年間ほど団のライブラリーを担当しておりました。ライブラリーとは、演奏会で使用する譜面を調達・管理する役目のことです。公演回数の多いプロオケでは専任のライブラリアンが置かれているのが普通ですが、新響を含めアマチュアの場合、団員が交代で担当する「係」のひとつであることがほとんどかと思います。新響では、年4回の演奏会に合わせて、譜面の手配、団員への配布、トレーナーの先生へのスコア(総譜)の送付、使用後の譜面の回収・保管といったところが主な活動となりますが、それらを通じて、50年という新響の歴史を感じることが幾度もありました。
 新響では、演奏会で使用した譜面は整理したうえで倉庫会社に預けて保管しています。以前、預けている譜面すべてを確認する「棚卸し」の作業を行ったときのことです。団員の厚意により自宅の20畳ほどの部屋を提供してもらい、取り寄せた百数十個の段ボール箱を部屋中に広げて、一箱ずつ中身をすべてチェックしたのですが、興味深い譜面をたくさん見ることができました。パート譜一式が布貼りの箱の中にうやうやしく収められたチャイコフスキーの交響曲は、新響がソビエトに演奏旅行(1967年)した際に現地で購入したものだったり、邦人作品のスコアの中には天地1メートルを超える巨大なものがあったり、思わず譜面整理の手を止めて見入ってしまうことがしばしば…。また、前回の演奏会でも取り上げた伊福部先生の「シンフォニア・タプカーラ」など、作曲家のスコアをもとに団員が手作りで作成したパート譜を目にして、「作品への愛情」や「譜面に対する思い入れ」のようなものを感じることができたのも、自分にとって貴重な体験でした。
 ところで私の場合、譜面といえば思い出すのが、今回演奏するラフマニノフの交響曲第2番です。以前大学オケでこの曲を演奏した際に使用した譜面は、出版社から正規にレンタルで調達したうえで、それとは別に当時トレーナーでお世話になっていた先生(新響にもたまに指導にお見えになる)が所属するプロオケのライブラリアンから、「弦楽器のボウイング(弓遣い)などを勉強するため」という口実でコピーさせていただいたものでした。譜面にはそのプロオケの楽団員が書き込んだユーモラスなイタズラ書きがあって、オーケストラ初心者の自分にとっては結構楽しかった記憶があるのです。2楽章最初のページの余白には、冒頭のリズムが連想させるのか『ヤギブシ』の書き込み、また4楽章の中ほどには、徳利とお猪口のイラストが器用に描かれ下に、(飲みに)『イコウヨ』の文字が…。ちなみにこの譜面(2ndヴァイオリン)は、全体で29ページありますが、そのうち10ページ分が4楽章で占められていて、しかも「休み」の部分は少なく、ほぼ弾きっぱなしです。「この楽章、ちょっと長い」と感じながらページをめくると、徳利とお猪口が目に入り、訳もなく元気が湧いてくることがあったのを思い出します。そういえば、今回新響で配られた譜面は何の書き込みもない「まっさら」なものだったので、受け取ったとき自分の中では何か物足りないような気持ちになりました。(だからといって、これからイタズラ書きをしようと思っている訳ではありませんが…)


第197回演奏会(2007.4)維持会ニュースより

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