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禁断のR指定音楽へようこそ

品田博之(Cl)

 
 シェーンベルクというとメロディーも協和音も無い、砂を噛むようないわゆる“ゲンダイオンガク”の創始者と考えている方も多いのではないでしょうか。しかしながら、20代までの彼の曲は爛熟を極めたロマンティシズムにあふれています。それはワーグナーやマーラーをもはるかにしのぐ濃厚さです。今回取り上げる交響詩「ペレアスとメリザンド」もその時代の傑作です。転調を繰り返しながらつながってゆく長い旋律線はワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」を、また、一見脈絡のなさそうな複数の旋律を重ねることで屈折した感情を表現するあたりはマーラーの交響曲第9番の第1楽章を思い起こさせます。そして、それらの中にシェーンベルク独特のキラキラと光る宝石のような、そして思わずため息が出てしまうような美しい瞬間がちりばめられています。
 この交響詩で取り上げている題材は、フォーレの劇音楽やドビュッシーの有名なオペラにも取り上げられているベルギーの作家メーテルランクの戯曲です。「王子ゴローはあるとき森にいた謎の娘メリザンドを見つけて城に連れ帰り妻にするが、メリザンドはゴローの弟ペレアスと惹かれあってしまう。ゴローはそれに気づき嫉妬に狂い、ペレアスとメリザンドの逢引きに乱入してペレアスを刺殺、メリザンドは城に連れ戻されるが傷心のうちに亡くなる.」 という粗筋です。全体を貫く雰囲気は大きく異なりますが、道ならぬ恋愛という点では「トリスタンとイゾルデ」に共通する要素を見出すことも可能でしょう。シェーンベルクはフォーレやドビュッシーとまったく異なる雰囲気の響きを作り出し、清純な雰囲気のペレアスとメリザンドの恋愛がまるでトリスタンとイゾルデの恋愛のように濃厚かつエロティックに、また最後は弟を殺してしまうゴローの苦悩と嫉妬を執拗に表現しています。
 ここまではチラシの裏面に書いた文章とほとんど同じですが、ここではこの少々難解だがエロティックな大人向けの音楽をしゃぶり尽くしていただくための「傾向と対策」を掲載いたしましょう。
 シェーンベルクの「ペレアスとメリザンド」は交響詩なのですが、かなり忠実に劇の筋を追っています。またワーグナーの楽劇と同様に登場人物、事物や感情に固有のメロディーを割り当てた、いわゆるライトモティーフにより曲が構成されています。加えて4楽章の交響曲のような構成にもなっています。 
 ここに掲載したのは音楽と劇の進行、そこに現れるライトモティーフと演奏する楽器について解説してあります。(ネタ本はアルバン・ベルクのテーマ分析(ドイツ語)です。)また代表的なCDのトラック番号も記しておきますのでぜひ事前にCDで予習しておかれることをお奨めいたします。場面が目に浮かび、それぞれのライトモティーフを聞き分けられるようになってくるとこの危険な魅力一杯の禁断の世界に足を踏み入れることになるでしょう。

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