新響の秘密〜運営委員長就任6年目にあたって〜
維持会員の皆様には、いつも新響をご贔屓にしていただきありがとうございます。本日は運営委員長の業務内容や新響の運営についてのお話をさせていただきたいと思います。
私が新響に入団してから早いものでもうすぐ19年、私のホルン人生の半分を新響で過ごしている計算です。東京で入るオーケストラを探したとき、コネがないと難しかったり、ホルンは一杯だからとあまり良い顔をされない所が多い中、新響は常時全パート募集(現在一部パートはクローズしています)で、見学の対応も丁寧で練習後飲みに誘ってくれたので、新響に入ることにしました。
実は学生の頃、参加していた室内オーケストラで、新響の名物運営委員長だった橋谷さん(故人)にエキストラで出演いただいたことがあり、楽器ができて運営もできる人はなかなかいないので、卒業後は是非東京に来て新響に入らないかと誘われたことがありました。結局卒業後しばらくは大学の医局で修行していましたが、その室内オーケストラでは立ち上げから関わってマネージャーという名前で会計と楽譜以外のほぼすべての業務を自分一人でやっていました。1人でやった方が手間暇がかからないというだけでマネジメント能力があったわけではありませんが、オケ運営のノウハウを手探りで身につけていました。
運営委員長就任は2006年11月で現在6年目です。私の入団から運営委員長になるまでの14年間に9人運営委員長が入れ替わり、平均任期は1.56年。毎年改選があり通常2年務めて交替するのが新響のやり方と思っていましたので、長くやってることがいいかどうかはわかりませんが、おかげさまで現在新響は平和だということかと思います。
<運営委員長のお仕事>
オーケストラの運営というと、本番や練習会場の予約、宣伝活動やチケット販売、プログラム作製、楽譜や楽器の手配、演奏会の受付といった実務を思い浮かべると思います。もちろんそのような実務を取り仕切るのが運営委員長ではありますが、「新響が良い演奏活動をするためにどう運営して行くか」を考え実施するのが運営委員長の責務と考えています。ですので、具体的に運営委員長はこれをするという業務はなく、実際に前任者から何も引き継ぎはなかったし、その時々の運営委員長の考え方や状況で組織は変化します。
プログラムに掲載する団員名簿をご覧になると運営委員の印が半分以上についていてマネージャーが10人以上いるのがわかると思います。運営業務はもっと少ない人数で管理し決定した方が効率的かもしれません。しかし企業ではなく団員に上下関係はありませんので、業務を細かく分けて多くの団員が運営業務を行い、実務をする者が自分の判断で出来るような形を取っています。私は各セクションの業務をできるだけ把握するようにし、うまく回らない箇所を自分でカバーしてしまうので、結果自分の首をしめることもありますが。
新響には「運営委員会」ともう一つ「演奏委員会」というものがあります。演奏委員会はパート首席からなる組織で、ローテーション(誰がどの曲の何番を受持つか)やオーディション、練習内容について決定します。演奏委員会がクローズドであるのに対し、運営委員会・合同委員会は団員であれば誰でも参加し意見を述べることが出来ます。どういう指揮者や曲目になるかはアマチュアオケマンにとって最重要ポイントですが、それを首席奏者会ではなく、運営が先導して全団員が参加できる合同委員会で決めるというのが新響のこだわりです。
<すべては良い演奏のために>
やはり、新響は一番に「良い演奏」を目指さないといけない、それは過去も未来もきっと同じです。では、新響にとって良い演奏とはどんな演奏でしょうか?単に小ぎれいでそろっているだけの演奏をして「お上手ね」なんて言われても少しも嬉しくはありません。もちろん、いわゆる技術的に高いものを目指すことは当然ですが、言葉に表すのは難しいけど、気持ちのある演奏、「ああ面白いかった」と言われるような演奏をしたいと私は思います。そのために何が必要なのでしょうか。
新響のよいところの一つは、団員の皆が新響に一所懸命関わっているところだと思います。前プロ1曲決めるにも戦いで、皆が新響の一員であることを楽しんでいたのではなかったかと思います。だから想いもあったし演奏にエネルギーが生まれた。今はどうでしょう、パワーが減って来てはいないでしょうか。ですから、運営委員長としてまずやらなければいけないと思うことは、団員全員の新響に対する興味やモチベーションをもっと上げることであり、それが「良い演奏」につながるとのだと思います。
もう一つ新響のよいところとして、幅広い年齢層の団員が集まっている点だと思います。これについては高齢化だと憂いている人もいるかもしれませんが、私は誇りに思います。新響で演奏するという点では、団歴の長い人もそうでない人も平等です。新陳代謝は必要だけど、無理に世代交替をしようとすることはない。新響には守らなければいけないことがあり、その上で変わっていかなければならないのです。だから、団歴の長い人にも運営でもっと活躍してもらいたいし、若い人には新響がどのようになりたってきているのかを知ってもらいたい。そのための場を作り将来に伝えていくことが、委員会に今まで多く出席して運営を見て来た私の義務ではないかと考えています。
以上は、5年前に運営委員長に立候補したときの演説の一部です。当時、団員の平均年齢は上がっているのに無理に運営を若い世代に託そうとして上手く行かず、演奏技術自体は良くはなっているのになんか求心力がなく、演奏会にお客さんもあまり入らないという状況でした。このままいくと新響がつぶれるんじゃないかという危機感がありました。
まず運営組織をフラットにし、適材適所を考え多くの団員が活躍できる場を作りました。それから団員が演奏する曲に対して興味と愛着を持てるように、例えばプログラム作成に誰もが参加できるようにし、記事は出来次第ネットで閲覧できるようにしました。それとお客さんをたくさん入れることを考えました。これが一番力を入れた点かもしれません。演奏会は、どんなに上手い演奏したとしても、お客さんが少なければ良い演奏会とは言えません。満席だと演奏する方も充実感があるしお客様にも新響って人気があるのねと思ってもらえます。細かいところでは、見学に来てくださる入団希望者の方に明るく挨拶しましょう〜というところから、新響のイメージアップをはかるようにしました。それとチラシの裏面の文章は、別に運営委員長の仕事ではありませんが、私が毎回書いています。以前は新響を語るような内容が多かったのですが、そうではなくお客さんに演奏会に行ってみたいな〜と思ってもらえるよう、企画意図と曲の魅力が伝わるようにしています。
<皆がいるからこそ新響>
新響には定年はありませんし、何年かごとの再オーディションもありません。つまり、入ってしまえば(団費演奏会参加費を払って練習に出てさえいれば)ずっと団員でいることが出来ます。オケのレベルを上げるために定年や再オーディションが必要なのではと言われたことがあります。実は私も入団したての頃、なんでやらないのかと思っていましたが、それは新響らしい演奏をするためにやらないのだと理解するようになりました。技術だけ優れている人をその時々で集めても良い演奏にはならないし、上手い人もそうでない仲間も、皆がいるから新響なのです。
新響のローテーションには、本番の出来だけでなく練習時の演奏も評価され反映されますので、ある意味数年ごとにオーディションを受けるよりシビアかもしれません。それよりも大切なのは、団員が新響に愛着を持てるかどうかだと思います。新響には60歳を超えた団員が多数いますが、今でも進歩して素晴らしい演奏をする団員もあり、若い団員の励みや目標になっています。そして将来新響のレベルについて行けなくなったら自分から身を引く覚悟でいるのは私だけではないでしょう。
それはそれとして、新しい団員を獲得し演奏での活躍の場を作ることも積極的にしています。それは新響が将来も新響であってほしいというのが団員の願いだからです。
<全団員が納得して活動をすること>
団員向けに新響ニュースが作成され練習時に配布されます。1964年に第1号が出されて以来、現在1255号まで発行され、練習日程や団員の情報、各委員会の議事録などが掲載されます。ほぼ毎週の時代もありましたが、今はメーリングリストでも連絡ができるため、月に1〜2回の発行となっています。合同委員会の議事録は詳細に書かれ、指揮者や曲目の決定過程などを知ることが出来ます。その議事録も書記が作成し出席者が確認して修正し、団員に伝えたいことを盛り込みます。とても手間がかかっているますが、全団員が納得して同じ方向を向いて活動をするためには必要なことなのです。
また、ローテーションを決めるのも手間がかかっています。各首席が自分のパートの案を提出し、演奏委員会で2〜3時間かけて協議します。単に上手い順に割り当てるのではなく、各団員の適性やモチヴェーション、将来性などを考え、演奏自体および新響の活動が良い結果になるよう考えます。そのパート首席も投票を参考に決めるのですが、その手順も長年の協議を経て今に至ります。全団員が決定に関与して手順を踏んで決めるというのも、全団員が納得して演奏をするために必要なことなのです。
<曲目はどのようにして決まるか>
例えば団員にどんな曲を演奏したいかアンケートをとって上位の曲を中心にプログラミングするというアマチュアオーケストラは多いのではないかと思いますが、新響はそれはしません。個人の演奏したいしたくない、好き嫌いという気持ちでは議論にならないからです。新響にとって演奏する意義があるかどうかを考えます。
昔から「10年ルール」という不文律があって、一度演奏会で取り上げたら10年間は演奏しないことになっています。レパートリーが偏らないためですが、この曲には当分会えない(もしかしてこれで最後)気持ちで、大切に演奏することができるのではないかと思います。
新響の場合は、まず指揮者が決まってから曲を考えるのですが、指揮者の意向をかなり尊重します。曲を決めるために指揮者を囲んで食事会をすることもあります。もちろんまず新響としてこれをやりたいという意思表示をしますが、曲や組み合わせにはこだわりを強く持つ指揮者もあり、協議に長い期間かかることもあります。指揮者に面白いと思って振っていただいた方が、結果的に良い演奏になるし、また新響と共演したいと思ってもらえるのではないかと考えています。
規模の大きいアマチュアオーケストラでは、どうしても大編成の曲ばかりになってしまいがちです。新響の場合、管打楽器は3管編成の倍の人数を定員としており、優秀な人があれば定員オーバーでも入団いただくので、毎回全員出演できるプログラムを組むのは難しいです。できるだけ全員が活躍できるようにしたいが、たまには編成の小さい古典派のような曲もやることもオケにとっては必要です。基本的には定員分の席の数を揃えるのが原則だが、そのプログラムが新響にとって意義があれば出演できない団員があっても納得してもらう。しかし、前後の演奏会でバランスをとるようにしています。
難易度や経費なども考慮しますが、余程でない限りこれらでは制約しないので、結果的に手間もお金もかかる企画になり、新響らしい(無茶な?)プログラムになることが多いです。その時には維持会費を使わせていただいており、維持会があるからこそ実現できるプログラムも少なくありません。特に来年は、経費のかかる企画が並びますので、どうか楽しみにしていてください!!
<運営上の悩み事>
その他にも、団員三大義務(=練習参加、団費演奏会参加費納入、集客:練習出席率と滞納金とチケット販売枚数は集計され団内に公表されます)、託児の会など新響の運営で紹介することはたくさんありますが、きりがありませんので、最後に「新響総括図」を掲載したいと思います。これは大昔からあるもので、年に1度の総会で配布される総会資料の最後のページに必ず載せているものです。新響の運営の基本的な考え方は、これに集約されていると言ってもよいです。
しかし、すべてがうまく行っている訳ではありませんし、いつも問題点はあります。新響が通常演奏会場にしている池袋の芸術劇場が改修工事で6回使えず、特に今度の演奏会は、元々15日の日曜にミューザ川崎で行う予定でしたが、震災の影響で使用できなくなり、何とかホールを確保しましたが、土曜夜というイレギュラーな演奏会となり、維持会員の皆様にはご迷惑をおかけします。また、20年間メインの練習会場として慣れ親しみ現在は楽器庫としても使用している労音十条会館が、来年道路拡張のために取壊される予定で、倉庫の移転と練習会場の確保が課題であります。
あとは合同委員会(平日の夜に行っています)の出席者が少ない。何か揉め事や刺激的な議題があると20人近く参加するのですが、任せておいてもそう変な事にはならないという安心感があるのか少なくて困っています。驚くような企画を提案するしかないでしょうか。AKB48のように年に1回じゃんけん大会でトップやパートを決めて演奏会をしよう・・・とか。
<アマチュアである誇り>
このような私たちの活動も、見方によっては音楽遊びを大真面目にやっているに過ぎず、単なる自己満足かもしれません。その活動に意味を持たせてくださるのが、聴いてくださるお客様であり、特に維持会の皆様には財政面だけでなく精神的な支えになっていただいており、感謝しています。
もう一つ私たちの活動を支えているのは、アマチュアとしての誇りなのではないかと思います。アマチュアとは音楽を愛すること。音楽はみんなのもの、音楽にはプロもアマチュアもない。でもアマチュアらしい新響にしか出来ない演奏をしよう〜という気持ちで取り組んでいます。
今回の演奏会ではロシア5人組の作品をプログラミングしましたが、彼らはアマチュア作曲家でした。5人組の指導者的な役割であったバラキレフは音楽の仕事をしていましたが(大学では数学専攻)、リムスキー=コルサコフは海軍軍人(のちにペテルブルグ音楽院の教授となる)、ボロディンは化学者(医学部教授)、ムソルグスキーは文官、キュイは陸軍軍人として余技の作曲活動を行っていました。当時ペテルブルグ音楽院が設立され西洋音楽を教え音楽を専門の職業とするための場であったのに対抗し、無料音楽学校を設立するなどロシア国民楽派といわれる活動を行いました。
もちろんアマチュアと言っても、ボロディンは作曲家として社会的責任を意識して活動をしていたということですし、私たちが新響で楽器を演奏するのとは次元が違うでしょう。以前新響でロシアから指揮者のティーツ先生をお呼びしたとき、あまりに厳しかったのですが、どうも日本で言うところのアマチュア演奏家という概念がないということがわかり、厳しいのも納得でした。しかしながら、同じ「非職業」で音楽に接し、自国の作品を取り上げようと取り組んでいる私たちにとって、非常に親近感がありますし、アマチュアの本分である「音楽を心から楽しむ」ことを実感できる演奏会にしたいと考えています。
3曲とも楽しくリラックスして聴けるプログラムです。ホールも木の温かい響きのする東京オペラシティですので、是非ご来場ください。