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タムタムスタンド

田中 司(パーカッション)


 第217回演奏会のマーラー「大地の歌」(指揮飯守泰次郎先生)でタムタムを担当した田中 司です。今回、維持会の会計でタムタムスタンドを購入致しましたので、維持会ニュースにお礼を兼ねて「タムタムスタンド」に関しての一文を書くことに致しました。
 「タムタムスタンド」の前に、まず「タムタム」という楽器について簡単に説明致します。今回使用したのは、中国製、直径38インチ(95cm)の物ですが、青銅製の丸い巨大な盆状で、縁にあいている2つ穴に紐を通し、専用のスタンドに吊るし、重くて柔らかい大きな頭のバチ(マレット)でたたきます。底力のある余韻の長い、低いお寺の鐘のような音がします。名称は、オーケストラの中では「タムタム」、楽譜にもそう書かれているのですが、「ゴング」または「ドラ」の方が一般的です。東方起源のこの打楽器は、今ではオーケストラになくてはならない仲間ですが、ヨーロッパでのオーケストラへの登場は、フランスの作曲家フランソワ・ジョセフ・ゴセック(1734年〜1829年)による「ミラボーの葬送用音楽」(1791年)からです。
 それでは、いよいよ「タムタムスタンド」ですが、今まで使っていたのは、芥川先生の時代に購入したものです。勿論その時にタムタムも一緒に購入しました。それは、今回使用した物より一回り小さいのですが、その後新響では、タムタムを使う曲を数多く演奏するようになり、サイズの大きな物も購入し、曲によって使い分けています。今回は、大きなサイズの方を使いました。どちらのタムタムも楽器自体に問題はないのですが、古いスタンドは、多少支障をきたしています。まず、サイズの大きい方に対してはスタンドが小さい。それから、スタンドは脚と枠で出来ているのですが、そのジョイントのネジが壊れてしまってグラグラしている。の二点です。そこで今回、維持会にお願いしてスタンドを新調し、実に気持ち良くたたく事が出来ました。感謝しております。
 そこで「スタンド談義」です。どんな発音体でも、多くの場合、スタンドは、主役の本体と同じ位重要でおまけに大げさです。一番良い例が鐘楼です。鐘という発音体のスタンドは鐘楼という立派な建物なのです。オーケストラのティンパニもバロック時代に今のスタイルが確立されたと思われますが、その後楽器としては大変な進化を遂げました。しかし、その進化はもっぱらスタンドの部分です。発音体である釜と皮の部分は昔のままです。それに比べるとタムタムのスタンドはあまり進化していないようですが、新しいスタンドを使ってみての感想は「たたきやすい」です。原因は、「固定度」が高くなっているからだと思います。「大地の歌」では、タムタムが43発出てきますが、その中でフォルテは2発だけで、残りは全てピアノからピアニシッシモです。フォルテよりもこの小さな音に「固定度」が極めて重要だったのです。
 この状況は、鋸で木を切る場合と似ています。フォルテに相当する丸太や薪を切る時には、良く切れる鋸さえあれば、適当に足で押さえてゴリゴリ切れます。しかし小さな木を切る場合にはそうは行きません。しっかりした「スタンド」が必要になります。「万力」で小さな木を固定して良く切れる鋸で切らないとうまく切れません。
 「大地の歌」では、タムタムを静止させて、同じコンディションでたたくと良い音が出るという事を改めて発見しました。蛇足となりますが、そのたたき方にも「鐘楼」が良いヒントとなりました。マレットをしっかり握り、その握った手と下腕を鐘楼の鐘を打つ丸太、上腕を丸太を吊るす綱と思って、たたくというより振ってぶつけるのです。うまく行くと、マーラーがこの曲に望んだと思われる、深山幽谷から湧き出た様な、東洋的な響きがオーケストラを包むのです。43発の内、フォルテを除く41発はそういう音を狙ってたたきました。新しいスタンドのおかげで、修行僧の様な気持ちで、「大地の歌」のタムタムに集中する事ができました。
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