音が出る!画が動く! クラリネット紹介
楽器紹介シリーズ 今回はクラリネットです。
オーケストラの管楽器の中でもかなりポピュラーな楽器で吹いたことのある方も多いと思います。
ここでは、クラリネットに関するとりとめのない話のあとに、オーケストラ曲の中でクラリネットが目立つ箇所をスマートフォンですぐに試聴できるようにYouTubeのリンクをQRコードにして列挙しますのでスマートフォンのカメラで写してリンク先に飛んで映像と音をお楽しみください。
(ホームページではURLをクリックしてください。)
話題1.いろいろなクラリネット
音域が広いのがクラリネットの特徴の一つで、普通のソプラノクラリネットで4オクターブ弱の音域があります。また、短いものから長いものまで多くの種類があり、通常ルート(楽器屋さん)で入手可能なものだけでも小さい順にソプラニーノクラリネットとしてAs管、Es管、D管の三種類、ソプラノクラリネットとしてC管、B管、A管の三種類、分類総称なしでG管、バセットホルン(F管)、アルトクラリネットEs管、バスクラリネットB管、コントラアルトクラリネットはEs管、コントラバスクラリネットはB管があります。そのうちオーケストラで頻繁に使用されるものにアンダーラインを引きました。
一方、斜体で示したものはオーケストラではまず使用されないものです。これらのうちいくつかを並べて撮影したのが右の写真です。左からソプラニーノEs管、ソプラノB管、ソプラノA管、バセットホルン(F管)、バスクラリネット(B管)です。クラリネットはマウスピースにリードを取り付けてそれを振動させて音を出します。楽器の大きさに応じてリードの大きさも違います。
話題2.絶対音感はクラリネット奏者にとっては邪魔?!
先ほどB管、A管、Es管などと書いていたのはどういう意味かというと、楽譜のドにあたる音を吹いたとき(指使いの表にある“ド”の音の運指で吹いたとき)に実際に出る音名を表しています。シのフラット(ドイツ音名でB(ベー))が出る楽器がB管、ラ(ドイツ音名でA(アー))が出る楽器がA管というわけです。同じ指使いでも楽器によって違う音が出る、これがすなわち移調楽器です。指使いを一種類だけ覚えればこれだけの種類の楽器が吹けてしまうのでとても便利です。
さて、オーケストラの曲ではこれらの楽器の持ち替えを頻繁にやらねばなりません。たとえば次に挙げた譜面はブラームスの交響曲第3番1楽章の冒頭です。最初in BとあるのはB管で吹けということです。つまり最初の音は、譜面上はレですが実際はドの音を出すことになるわけです。これだけでも絶対音感のある人は気持ち悪いそうですが、さらに4段目の真ん中にmutano in Aとあります。これは、ここでA管に持ち替えろという指示です。持ち替えた直後の最初の音は譜面上ソなのでB管のままで吹くとファになりますがA管に持ち替えているのでその半音下のミを出すことが要求されていることになります。書いてある音符と違う音がでる。それも頻繁に変わってしまう。オーケストラのクラリネット奏者はこれに耐えなければなりません。絶対音感がある人は音符を見てその絶対的な音の高さが頭に浮かびますが、この能力を持っていても封印しないと気持ち悪くてやっていられません(たぶん)。実際、しっかりした絶対音感があって中学の吹奏楽部でクラリネットを始めた人が、大学でオーケストラに入りB管だけでなくA管も吹けと言われて耐えられなくて辞めたり、A管を拒否してすべての譜面をB管一本で吹きこなしたりした人がいました。楽器の持ち替えは作曲家が楽譜に指示しています。だいたいはA管とB管の持ち替えなのでシャープ系の曲はA管、フラット系の曲はB管というように調子記号(五線譜の一番左についているシャープ♯やフラット♭)が少なくなるようになっていますが、マーラーの交響曲などではたまに逆に調子記号が増えたり、あり得ない短時間で持ち替えたりしなくてはならないような、いじめのような楽譜もあります。ステージ上でクラリネット奏者があわてて楽器を持ち替えていたらそういうことだと思ってください。
“音が出る!画が動く!”その1:クラリネットとオーボエを聴き分けよう
こんなことを書くと「両者の違いが判らないことなんかないだろう」と思う方がほとんどかもしれませんが、以前こんなことがありました。あるロシアの作曲家の60分近くかかる交響曲でクラリネットが嫋々と長大なソロを吹く曲を新響で演奏したときのこと、コンサート終了後あるお客様がご自分のブログでその曲に対する薀蓄もとりまぜながら、読み応えのある文章で演奏の感想を述べられていました。そこに“オーボエのソロが云々”という記述があったのですが、どう考えても前後の文脈からそれはクラリネットのソロのことなのです。それを見たとき結構ガッカリしたものです。
でも、「そんなものかな?木管楽器に詳しくない方には結局、“本体が黒くて金具がごちゃごちゃついている縦に吹く楽器”くらいの認識なのかもしれない。」と納得したものです。そんなわけで、“音が出る!画が動く!”の第一弾は、木管楽器の聴き比べです。以下に挙げるのは、フルート→オーボエ→クラリネットとソロがリレーされる、木管楽器の聴き比べにはうってつけの曲、レスピーギのローマの噴水の第一曲です。本年1月の第240回のコンサートでも取り上げたので覚えておいでの方も多いと思います。下のQRコードを読み込むとこの動画の開始後4分3秒が頭出しされます。さっそくフルートのソロの始まりです。そのあとオーボエそしてクラリネットです。音色の違いをお楽しみ下さい。
https://www.youtube.com/watch?v=vkp_GpVUvvY&feature=youtu.be#t=4m03s
“音が出る!画が動く!”その2:クラリネットが活躍する曲
ここからは、独断と偏見で選ぶクラリネット名ソロ集です。紙面も限られているので曲の解説は省略し、その雰囲気を一言であらわしてみました。おおよそ年代順に並んでいます。お聴きになられれば、さまざまなキャラクターを吹き分けられる、表現の幅がとても広い楽器だということがお分かりになっていただけるのではないでしょうか。
(1)素朴・純粋:モーツァルト/交響曲第39番第三楽章の中間部
なんとシンプルなメロディーでしょう。
https://www.youtube.com/watch?v=QsSulfTeGrM#t=2m5s
(2)平和・自然:ベートーヴェン/交響曲第6番「田園」第二楽章の中間部
吹いていて気持ちいいです。
https://www.youtube.com/watch?v=7_t9m2YZa0s#t=5m39s
(3)典雅・跳躍:ベートーヴェン/交響曲第8番第三楽章の中間部
ピアニッシモの高いF(ファ)で終わるのが難しい!
https://www.youtube.com/watch?v=Cg-pJBieZzk#t=0m18s
(4)阿鼻叫喚:ベルリオーズ/幻想交響曲第五楽章
ソプラノクラリネットC管のソロの後、Es管のソロが続きます。
https://www.youtube.com/watch?v=iKOCo9JgrT8#t=1m29s
(5)安寧・平穏:ブラームス/交響曲第3番第二楽章
二番クラリネットと二本のファゴットに伴奏されてのソロ。
https://www.youtube.com/watch?v=vCnSjMrEGCE
(6)躍動・舞踏:リムスキー=コルサコフ/スペイン奇想曲
吹奏楽でもよく演奏されます。
https://www.youtube.com/watch?v=vLOVVzmEnto#t=0m45s
(7)甘美・陶酔:ラフマニノフ/交響曲第2番第三楽章冒頭から
極甘ロマンティック!
https://www.youtube.com/watch?v=Qf1ZChhsl3E
(8)民謡・哀愁:コダーイ/ガランタ舞曲
長大なソロが二か所あります。ほとんどクラリネット協奏曲。
https://www.youtube.com/watch?v=iPJZNrNtHpM#t=1m9s
https://www.youtube.com/watch?v=iPJZNrNtHpM#t=14m16s
(9)即興・粋:ガーシュイン/ラプソディーインブルー冒頭から
特殊奏法(グリッサンド)のソロです。
https://www.youtube.com/watch?v=ss2GFGMu198
(10)扇情・淫靡:バルトーク/バレエ音楽 中国の不思議な役人
この曲の抜粋を、中学や高校の強い吹奏楽団がときどき演奏しますが、このバレエの場面はR18(?)指定です。
https://www.youtube.com/watch?v=PpYMNBGWjaM#t=3m22s
(11)抑圧・憂鬱:ショスタコーヴィチ/交響曲第10番第一楽章
20世紀最高の交響曲の一つ。
https://www.youtube.com/watch?v=XKXQzs6Y5BY#t=3m36s