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新響改革プロジェクト ~これからの新響にご期待ください!

藤原 桃(ファゴット)
 ファゴットパートの藤原と申します。2024年度より、団内の「新響改革プロジェクト」のうち「中長期計画担当」を拝命しております。今回は、普段の(クラオタによるマニアックな)読み物とは少し趣向を変え、現在新響の内部で動いている改革プロジェクトとその裏側、さらに来年度からの企画についてご紹介させて頂きます。
 早いもので2024年も残すところあと1か月となりましたが、来年2025年は、新交響楽団の音楽監督であった故・芥川也寸志の生誕100年です。芥川生誕100年というのは新響のみならず日本の楽壇全体にとって重要な節目であり、芥川先生と関係の深かった当団が、この節目においてどのような内容、形でこれを顕彰するかによってその意味合いや価値が再形成される面も少なくないと個人的には考えております。
 また翌2026年は新交響楽団創立70周年にあたり、当団にとってのアニバーサリーイヤーが続きます。日本全国のアマチュアオーケストラで70年の歴史をもつ団はそう多くなく、これもひとえに当団の活動を常にご支援下さる維持会員の皆様のお陰と感じています。それでも、70年の間に新響を取り巻く社会や環境は大きく変化しており、今後も新響が存続し活動を充実発展させていくための改革を余儀なくされています。
 「新響改革プロジェクト」とは、これらの問題に立ち向かうための方策を検討すると同時に、来たるアニバーサリーイヤーに向けて長い目線で企画立案を行っていくために、2023年末の団員総会にて、運営委員長であったホルン大原が発動を宣言したものです。以下、「新響改革プロジェクト」の内容をご紹介していきます。

プロジェクト発動の背景

 新響が改革を余儀なくされている要因としては、主に以下の3つが挙げられます。
  1. 団員の高齢化
  2. 新入団員の減少
  3. 新響の認知度の低下、活動の陳腐化(ルーチン化)

① 団員の高齢化

 現在、新響には20~70代まで幅広い年齢層の団員が在籍していますが、ボリューム層は60代(筆者の肌感覚)です。たとえば筆者の所属するファゴットパートは現在4名の団員が在籍しており、筆者は30代後半ですが、のこり3名はアラ還(アラウンド還暦)のおじさまです。パートの平均年齢は60歳前後、おじさまたちが引退を表明される時期も似通ってくると想定した場合、新響のファゴットパートはある日突然筆者1人になってしまう可能性も大いにあるという危機的な状況です。
 団員の年齢層が幅広く、平均年齢が高いということは、団の演奏に味と深みをもたらし、活動内容に幅を出す要因にもなり、決して悪いことではないと考えています。しかし若い世代の奏者にも継続的に入団し定着してもらわないことには、団員数が先細りになり、団の演奏水準ひいては活動自体の安定が損なわれる恐れが出てきます(日本全体の少子高齢化にも通ずる根深い問題です)。実際、都内のいわゆる「老舗アマオケ」でも、仲間内で集まると「世代交代がうまくいかず『オケじまい』を真剣に考え始めている」という話題が漏れ聞こえてきます。

② 新入団員の減少

 2019年末に端を発する新型コロナウイルス大流行を経て、世界の医療・社会の仕組みはもちろん、人々の生活や行動様態も大きく様変わりしました。ことオーケストラは「衣食足りての」余暇活動であることに加え、大人数で長時間密集して(なおかつ管楽器担当の人間は呼気や唾液を通常以上に排出して)行うという特性上、コロナ禍における活動制約をもっとも大きく、長期間受けざるを得ませんでした。新響においても、入団オーディションの開催回数や見学可能な練習の回数を減らさざるを得ず、これらがダイレクトに影響してコロナ禍以降入団者数が伸び悩んでいました。
 加えて「おうち時間」を楽しむための余暇活動がコロナ禍に充実したせいか、流行を機に離脱した人が戻ってこず、人と人とが集まって行う活動への参加者数自体が目減りした印象があります。2023年末、新響の団員数はついに100名を割り込み、新入団員獲得が喫緊の課題となります。

③ 新響の認知度の低下、活動の陳腐化

 日本全国のアマオケの数は1,000を超えるとも言われており、特に近年では特定の曲目を取り上げる、あるいは特定のメンバー/指揮者/ホールで実施するといった単発の目的を掲げたいわゆる「一発オケ」が急増している印象があります(筆者の肌感覚)。こうした「一発オケ」や、大学同期を中心に立ち上げたオケなどではメンバーのほとんどが20~30代という団体も少なくなく、若い年代同士で結成されるオケが増加する一方で、新響には若い団員が入ってきてくれない。おそらく50年前にはアマオケの絶対数が少なく、様々な曲目を高いレベルで演奏したい人にとっては新響くらいしか選択肢が無い、という状態だったのだと思われますが、現在はそうではありません。実に魅力的な曲目、企画の演奏会が毎週のように開催されており、どこのアマオケも技術的にとても上手です。新響の場合は1年間に4回もの演奏会を実施しているということが特徴の1つですが、このことは現代のアマオケ民にとっては必ずしもプラスに捉えられず、むしろ好きな時に好きな曲だけ演奏したい人にとっては拘束が強いと敬遠されてしまうようです(終身雇用制からジョブ型雇用へ、これも現代日本の直面する社会的変革ですね)。
 また新響の対外的な宣伝方法としては、ホームページ、チラシの配布(コンサートサービスさんという会社に頼んで、首都圏のコンサート会場で配ってもらっています。演奏会を聴きに行くとホワイエの入り口前で袋を配っている、あれです)などが中心でしたが、昨今の若者はそもそもホームページというものを見ない(SNSが中心だそうです)、プロオケの演奏会にもあまり行かないらしく、「新響」の存在自体を知らない若手アマオケ民が増加しているようです。
 さらに新響内部の問題として、演奏会の企画については、団内で月1回開催される「合同委員会」(団員であれば誰でも参加でき、総会決議事項以外のすべての団運営に関わる事項を討議決定する)で検討していますが、演奏会ごとの単発検討になってしまう、決定までに時間を要し演奏会開催の対外告知が遅れがちになる、などの課題がありました。2025年(芥川生誕100年)、2026年(創立70周年)という2年連続のアニバーサリーイヤーに向け、中長期的な目線で計画をたてていくにはどうしたらよいか。魅力的な企画を前広に見せていかなければ、来場者のみならず入団希望者も増やしていくことはできないのでは、という焦りもありました。

新響改革プロジェクト

 こうした諸々の状況に対応・対抗するための特命チームとして、新響改革プロジェクトは、2024年から以下の3担当で活動を開始しました。すなわち、
  • (A) 「広報プロジェクト」 … 新響を若い世代に知ってもらおう!
  • (B) 「人事プロジェクト」 … 新響のオーディションを受けてもらおう!
  • (C) 「中長期プロジェクト」 … 新響の活動を先々まで計画しよう!
このうち(A)「広報プロジェクト」と(B)「人事プロジェクト」での活動内容、今後の方針などは次回の紙面に譲ることとし、今回は(C)「中長期プロジェクト」で主に担当してきた、2025年からの演奏会企画について皆様にご紹介いたします。

(C) 中長期プロジェクト

 筆者が担当を拝命しているプロジェクト。もともと筆者は団内で助成金申請の担当を受け持っており、助成金というのは演奏会開催の1年半くらい前に申請するものが多いので、自分が申請書を書かなければいけない都合上「来年、再来年の企画はどうするんだ」「2025年度は芥川生誕100年、2026年度は新響創立70周年なのに何もやらないのか」云々と会議の度に騒いでいたのが災いしたのでしょう。昨年末、団員総会の前夜に運営委員長からプロジェクトリーダーの打診があり、いいともイヤとも言わないうちに翌日の総会資料には名前が掲載されておりました。
 本プロジェクトにて、第268~273回(2025年1月~2026年4月)までの演奏会企画立案を行いました。以下、「今後の演奏会」予定をご覧ください。
 以降、企画内容と立案の裏側を少しずつご紹介します。  

第268回演奏会(2025.1.5)

30回以上にわたる共演を通じて故 飯守泰次郎氏の薫陶を受けた当団。特に象徴的なのは、やはり《トリスタンとイゾルデ》(2006年・2019年)をはじめとするワーグナー作品ではないでしょうか。新国立劇場で長年にわたって氏の謦咳に接してきた城谷正博(同 音楽ヘッドコーチ)が、信頼を寄せる一流歌手陣とともにそのバトンを受け取ります。上演に約4時間を要する楽劇《ジークフリート》を、演奏会形式で約90分に抜粋してお届け。ワーグナーははじめてというあなたにもおすすめです! そのスペクタクルな音楽世界に魅惑されること間違いありません。
  • 城谷先生に指揮をご依頼することは昨年夏には決定。城谷先生といえばワーグナーということで、主催される「わ」の会の歌手陣も招聘し、歌つきでやっちゃおう!と、ワーグナーを定期的に演奏しないと生きていけないクラリネット首席の品田が中心となりトントン拍子に決定。城谷先生こだわりの抜粋・一部編曲バージョンにて、演奏会形式で実施することとなる。
 すでに練習も佳境に差し掛かっていますが、新国立劇場で活躍される城谷先生のtuttiはまさにプロ中のプロ。スコアは全て暗記され、半袖シャツ姿で一度もイスに座らず、歌手のパートをずっと歌い続けながらオケにバシバシ指示を飛ばされています。オケのサウンドもみるみるワーグナー色に染まっており、年明け5日に川崎で皆様にワーグナーの世界を楽しんで頂く準備が着々と整っています。
▲凄まじいエネルギー量の城谷先生

第269回演奏会(2025.4.19)

芥川×新響が打ち立てた金字塔の一つ、ショスタコーヴィチ《交響曲 第4番》日本初演(1986年)。2023年、当団との《第9番》《第12番》で好評を博し、翌年には《第5番》でNHK交響楽団へのデビューも果たした坂入健司郎が、満を持してこの意欲作に挑みます。1986年のサントリーホール落成を記念して書かれた《響》のソリストには、すでに当団と共演を重ねる石丸由佳を迎えて。2021年には先んじて《第1番》の日本初演(指揮:飯森範親、管弦楽:日本センチュリー交響楽団)も担っている松田華音によるシチェドリン《ピアノ協奏曲 第2番》日本初演も必聴です。
  • サントリーホールが確保できた!ということで、実質的に芥川生誕100年記念の目玉となる演奏会。筆者がプロジェクト担当を引き継いだ時点で開催まで1年強と迫っていたが、演奏会の内容は白紙状態であった。まず芥川生誕100年企画全体として「過去の栄光の顕彰にとどまらない」「伝統を踏まえつつ未来志向を印象づける」という方向性を決め、新進気鋭の坂入健司郎先生に指揮を依頼することに(ちなみにこの回の次の第270回演奏会も坂入先生)。しかし演奏曲目がなかなか固まらない。
  • 2024年4月上旬の練習後、飲みながらプロジェクト会議を実施するも煮詰まり、深夜だったがその場で坂入先生に直電(すぐ出て下さり嫌な声一つされない神対応)。ここで先生より、シチェドリンのピアノ協奏曲2番を松田華音さんで、という超級の提案が飛び出す。シチェドリンは芥川先生が生前密接なつながりを持っていた旧ソ連における指導的な作曲家ながら、日本での演奏機会は非常に少ない。松田華音さんは幼少からロシアでピアノを学ばれた人気・実力ともに非常に高い新進気鋭の若手ピアニスト。そしてピアノ協奏曲第2番が実現できれば日本初演となる。これで企画のストーリーが決定づけられ、なんとか開催11か月前に対外告知。坂入先生に出演して頂いて告知動画を作成したところ、反響あり。

第270回演奏会(2025.7.21)

芥川也寸志を含め多くの邦人作曲家の仕事を語るうえで、映像音楽は欠かせません。〈映画誕生100年記念〉を銘打った第148回演奏会(1995年)で個性的なプログラムを披露した当団が、当時から引き継がれる独自の感性で、自主演奏会では30年ぶりに映像音楽を特集します。指揮者イチ押しの《マヤ族の夜》、そして皆さんもきっとご存知、伊福部昭による《ゴジラ》などの音楽で、会場のボルテージは最高潮に達することでしょう!実は当団のチェロ団員でもある坂田晃一、ついに演奏が実現するその作品たちにも注目です。
  • 会場が東京国際フォーラムであることからも、通常のクラシック演奏会とは毛色の異なる、サマーコンサート的な感覚で聴けるラインナップでまとめていくことに。芥川先生の作曲家としての仕事の重要な一側面である「映画・映像」音楽を軸に曲目を決めていくこととなった。多くの楽曲が候補に挙がるが、映像音楽作品はどれも短く、いわゆるコンサートの「メイン」に何を据えるかで行き詰まる。そこで指揮の坂入先生に相談したところ、レブエルタスの「マヤ族の夜」という、これも超級のご提案を頂く。レブエルタスはメキシコの作曲家であり、邦人作品を軸に考えていた新響側としては全くノーマークであったが、曲自体がとにかくものすごい(打楽器12人、ホラ貝2人などを編成に擁する凄まじい楽曲です。ぜひ聴いてみてください)。ある意味新響らしいのではということになり、企画の大枠が完成。
  • 新響には、作曲家の坂田晃一がチェロの団員として在籍している。映像音楽のエキスパートである坂田の作品を本演奏会で取り上げない手はないということで、「おしん」のテーマや大河ドラマのテーマ曲などを盛り込むことに。現在の新響の編成に合わせ、坂田が自身の楽曲を編曲し譜面を整えることとなり(団員に作編曲家が居るというのは素晴らしいことです)、演奏会の全企画が決定。

第271回演奏会(2025.10.13)

数多の独墺作品で着実に関係を深めてきた寺岡清高が、要望に応えて当団で邦人作品を初披露! 王道の2作品でアニバーサリーイヤーを寿ぎます。当団では21年ぶりに取り上げるベートーヴェン《交響曲 第5番》は、第1回演奏会(1957年)を筆頭に、芥川也寸志のタクトで10回以上にわたって演奏した大切な作品。生誕100年シリーズの締めくくりにふさわしい選曲と言えるでしょう。《第2番》の披露も実に30年ぶりとなります。これまで《第1番》(2015年)《第8番》(2017年)を共演してきた寺岡×新響のタッグが、一挙にその歩みを進めます。
  • 改修工事の完了した東京芸術劇場での開催へ1年ぶりに戻る演奏会。先立つ269回、270回演奏会では、コンチェルトや映画音楽など変化球気味の選曲であったため、この271回演奏会はオーソドックスなクラシックコンサートのラインナップで進めることを決定。芥川作品については、「新響のテーマ音楽」であると(団員としては)考えている「交響管弦楽のための音楽」と、編成が弦楽器のみということで10年以上演奏していなかった「トリプティーク」の2曲を取り上げることに。ここにベートーヴェンを組み合わせ、久々のホーム(芸術劇場)での名曲プログラムという方向性で着地。ベートーヴェンをしっかりやるなら是非寺岡先生に、という団員の声に加え、実は邦人作品も得意ですよというご本人のお言葉に力を得て、指揮は寺岡先生に決定。曲順などを先生と相談したうえで、9月には対外告知。

2026年(第272回演奏会)以降

 2026年度の「創立70周年」の方向性についてもプロジェクト会議で継続的に審議中。「祝祭的な大編成ものから、中小規模(時には弦・管に分かれた合奏曲も)の作品まで、幅広く交互に取り上げ、年間を通してプログラムに緩急をつける」「創立70周年の記念事業として、作曲家で当団チェロ団員の坂田晃一に新曲作品を委嘱する」方向性は決定。
 現在、第272回および第273回(2026年4月)までは日時・場所が決まっており、それぞれ順次検討を進めています。第272回演奏会は、坂田晃一による委嘱新曲と、マーラーの祝祭的な大作「交響曲第3番」を矢崎彦太郎先生の指揮で演奏予定です!どうぞお楽しみに。

 以上「中長期プロジェクト」と、来年度からの企画について長々とご紹介してきました。次号の「維持会ニュース」では、残る「広報」「人事」の2つのプロジェクトについてご紹介する予定です。
 それにしても、むこう1年半(都合6回分)の演奏会について、常に並行して検討準備をし続けるというのは非常な作業量です。筆者も担当拝命後困り果て、世の中にアマオケ対象の企画運営コンサルタントは無いものかと本気で探したりもしました。それでもこの1年は20~30代の何でもできる若手団員が大変積極的に動いてくれて、勢いをもって様々な懸案を実行に移していくことができたと感じています(いまなら自分がアマオケコンサルとして起業できそうです)。特にSNSの戦略的活用と、各種システム(録音・録画の編集や電子チケット、ホームページ編集など)に精通していることが、現代において対外的活動を行っていく上では必要不可欠なのだなと痛感しているところです。これまで新響が培ってきた歴史、人脈、経験等の分厚い積み重ねを今後も守り、継続させ、さらに発展させていくためには、これまでの方法と並行して、これらの技術を手段として最大限活用していくことが肝要です。維持会の制度についても、現在のものと並行してwebやメールを中心とした会員の形を選択肢として増やせないか、検討しているところです。
 来年以降も、団員一同力を合わせてより魅力的な活動を展開してまいります。まずは直近1月のワーグナー「ジークフリート」、そして「芥川生誕100年記念」の各演奏会にぜひお越しください。皆様と会場で音楽を共有できますことを、心よりお待ちしております。
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