新響改革プロジェクト(続編) ~これからの新響にご期待ください!
藤原 桃(ファゴット)
ファゴットパートの藤原と申します。前回に引き続き、2024年度より開始された「新響改革プロジェクト」その他運営のあれこれについて書かせて頂きます。維持会員の皆様のお手元へお届けする「維持会ニュース」の内容は、当団ホームページやSNSでも一部公開しておりますが、前回の拙文は想像以上に反響が大きく、様々なご意見、反応を頂きました。それに味を占めた…わけではありませんが、前回書ききれなかった内容と、年度も代わってさらに新しく決定したニュースもありますので、もう1回だけ、当団内部の運営などのお話にお付き合いください。前回は、まず社会情勢やアマチュアオーケストラの在り方の変容を踏まえながら、現在の新交響楽団が直面している問題点を分析しました。すなわち、①団員の高齢化、②新入団員の減少、③新響の認知度の低下、活動の陳腐化(ルーチン化)という一筋縄では解決しがたい課題の数々です。これらの難題に立ち向かいつつ、来たるアニバーサリーイヤー(2025年:芥川生誕100年、2026年:新響創立70周年)においてさらに充実した活動を行っていくために立ち上げられたのが、「新響改革プロジェクト」です。
プロジェクト発動の背景
新響改革プロジェクトは、2024年から以下の3担当で活動を開始しました。すなわち、- (A) 「広報プロジェクト」 … 新響を若い世代に知ってもらおう!
- (B) 「人事プロジェクト」 … 新響のオーディションを受けてもらおう!
- (C) 「中長期プロジェクト」 … 新響の活動を先々まで計画しよう!
(A) 広報プロジェクト
<テーマ> 新響を若い世代に知ってもらおう!<目的・業務> 広報宣伝強化のためのSNS充実、動画配信、公式サイトリニューアルなど
<これまでの成果>
新交響楽団のYouTubeチャンネル立ち上げ(2024年7月)
新響では毎回の演奏会を団内記録用に録音・録画しており、そのアーカイブは膨大な量にのぼります。新響の知名度向上、またそれ以上に往年の指揮者との過去の演奏などは貴重な記録であり死蔵しておくのはもったいないということで、予算獲得のうえ過去録音の棚卸とデジタライズをすすめ、YouTubeでの公開を開始しました。権利許諾関係の整理がネックでしたが手分けしてクリアにしていき、7月1日に伊福部昭『シンフォニア・タプカーラ』の録音を記念すべき1本目の投稿としてアップしています。この『シンフォニア・タプカーラ』の動画は再生数が4,000回を超えており、「新響のタプカーラ」を求めて聞いて下さる方が一定数いることが再確認されました。新響のYouTubeチャンネルには、2月末現在で21本の動画が投稿されています。特に飯守泰次郎先生のブルックナー4番(1993年)などは映像付きで、当時52歳の飯守先生の指揮ぶりをたっぷり見ることができるため、3,000回以上再生される人気動画となっています。今後も継続的に新旧の演奏をアップしていく予定ですので、ぜひ @shinkyo_tokyo へアクセスしてご覧になってみてください。

SNSの充実
新響ではFacebook、X(旧Twitter)、InstagramなどのSNSを使って活動の様子を紹介していますが、2024年からは若い団員を担当に増員し、写真や動画なども織り交ぜて投稿を充実させています。265回演奏会(2024年4月)で『ローマの松』を取り上げた際、2楽章のバンダトランペットが舞台裏で演奏する様子を動画で紹介した投稿がX上で4万回近く表示されるなど、いわゆる「バズる」(≒SNS上で話題になり、多く拡散される)投稿も出始めました。例えば演奏会のチラシを4万人に渡すことは物理的になかなか難しいですが、SNSを戦略的に活用することで、特に若い世代に向けて新響の存在や活動内容をひろく知ってもらうことが出来るのだなあと実感しています(昭和生まれの筆者は全く技を持っていませんが、デジタルネイティブ世代は息をするようにSNSが使えるようです)。最近では、268回演奏会(2025年1月)でブリュンヒルデ役としてメゾソプラノ歌手の池田香織さんを招聘しましたが、たまたま練習当日が池田さんのお誕生日にあたることがありました。指揮の城谷正博先生とこっそり相談し、練習の冒頭で『ジークフリート牧歌』(ジークフリートが妻コジマの誕生日に贈ったとされる楽曲で、268回演奏会で取り上げた『ジークフリート』の第3幕に転用されている)の一部をサプライズ演奏しました。ローマの松2楽章のトランペットバンダソロ、団員の許可が出たので公開します🎺このソロを吹いた倉田曰く「トランペット吹きが緊張するソロtop3のうち1つ(他は展覧会の絵、マーラー5番)」とのこと。「このピュアな響きには罪人も心を改めることでしょう」と矢崎先生も絶賛されていました✨#新交響楽団 https://t.co/LMAjLGzDht pic.twitter.com/CkKXIW54vc
— 新交響楽団 (@shinkyo_tokyo) April 21, 2024
池田さんは大変喜んで下さり、サプライズは大成功!この様子を映した動画は当団SNS上で多く再生され、池田さんご自身のSNSでもご紹介頂きました。アマチュアオーケストラというのは活動のほとんどを演奏会のための練習に費やしている一方、皆様にお見せできる活動は演奏会本番のみであるという相反する活動本質を持っております。演奏会以外の時に発生した事件や出来事は(まあ演奏会当日も様々な事件が発生しますが)これまでなかなか皆様と共有できませんでしたが、このようにSNSで写真や動画をご紹介することで雰囲気の一端を伝えられるのが魅力の1つだなと感じているところです。
また、当サイトもリニューアルに向けて準備をすすめています。新響のサイトにはこれまでの演奏会における曲目解説や特集記事などの膨大な蓄積があります。この充実したアーカイブを活かすため、新しいシステムを使ってさらに見やすく、安全性の高いサイトに刷新する予定です。本日の練習からジークフリート役の片寄 純也さん、ブリュンヒルデ役の池田 香織さん@kaoriikd… pic.twitter.com/1qMwC73l0l
— 新交響楽団 (@shinkyo_tokyo) December 22, 2024
(B) 人事プロジェクト
<テーマ> 新響のオーディションを受けてもらおう!<目的・業務> 見学者増加、団員増加のためのリクルート。およびその前提として、新響の魅力を対外的に発信するため、新響の強み・弱み・機会・脅威や、アマオケ市場における新響の位置づけなどを議論・再整理する。
<これまでの成果>
新歓フライヤーの作成(2024年3月~)
年度の切り替え時期は人の動く時期であり、アマオケにとっては新入団員を獲得するチャンスとなります。特に大学を卒業して新社会人になる方は、オーケストラを続けたいと思っていても活動団体が決まっていない場合などが多く、リクルートの狙い目なのですが、これまで団としては特に何の方策も打っておりませんでした。そこで、人事プロジェクトで大学卒業生狙いの新歓フライヤーを作成。都内大学オケの卒業記念演奏会等で挟み込みを実施するとともに、SNSでも積極的に発信しました。実際にその後オーディションを受検してくださった方に対して「何の媒体で新響を知りましたか」というアンケートを取ったところ、この「新歓フライヤー」を挙げて下さる方が少なからずおり、一定の効果があったものと考えています。ちなみにこの新歓フライヤー作成も、団内の若手団員数名が発案から1か月もたたないうちにデザイン、印刷から挟み込みまで行ってくれ、最近の若いもんは何でも超スピードで出来るなあと驚愕しております。今年の3月も、内容を更新したフライヤーを作成して、高校のオーケストラ部の演奏会にまで範囲を広げて挟み込みを行う予定です。団員候補としては若干青田買いかもしれませんが、チラシを目にすることで新響の存在を知ってもらい、身近に感じてもらうところがスタートだと思っています(ザイオンス効果というやつですね)。
見学者数、オーディション受検者数の増加
まずオーディションの実施回数について、コロナ禍以前は年間10回程度実施していましたが、コロナが大流行した2019年以降は3か月に1回程度の頻度に抑えていました。しかし、やはりオーディションが頻繁に開催されないことには未来の人材が他団体へ流出するのを止められないため、2024年からは基本的に毎月オーディションを開催することとし、開催予定の日程を先々まで公開して受検を検討して頂きやすくしました。その他、上記新歓フライヤー(裏面に活動内容の詳細や、今後のオーディション開催日程を書いてあります)やSNSでの発信の効果もあり、2024年以降は練習の見学者数、オーディション受検者数が急増しています。その結果若い団員も増加し始めました。パートごとの団員数にはまだ偏りがありますが、引き続きこの好サイクルで多くの方にオーディションを積極的に受検していただき、素敵な奏者がどんどん仲間になってくれればと考えています。新響のミッション、ビジョン、バリュー検討会議
人事プロジェクトの急務は優秀な団員の確保を加速することですが、その最終的な目的は新交響楽団がこれからも継続的に発展し、「より良い演奏」をし続けることです。そのためには、新響がどういう団体であって、どこを目指しているのか、きちんと内部で整理して、わかりやすく対外的に発信しなければなりません。ということで、上記のようなチラシ作成、オーディション実施などといった物理的な作戦と並行して、新響のいわゆる「ミッション、ビジョン、バリュー」を再定義するために団員間でのディスカッションを継続的に行うことにしました。団員それぞれが思う新響のよいところ(時として、プロを超えるのでは?という体験ができる!という意見も)、マイナス面(よくも悪くも組織がしっかりしていて硬い、という意見も)などをフランクに話し合い、どうすれば他の団体にはない魅力を伝えていけるか、キャッチフレーズのような一文に言語化することを目標に活発な議論を行っています。新響には、団の目的や団員の役割などを図式化した「新響総括図」というものがすでにあるのですが、これは数十年前に作成されたものなので、いま新響を取り巻く環境を踏まえながら再解釈・再定義できると良いねという案も出ています。
ここまで、「新響改革プロジェクト」の内容をご紹介してきました。このプロジェクトは2024年に発足したものですが、その後2025年度に入り、さらに様々な企画が進行中です。ここで改めて、2025年<芥川生誕100年>および2026年<新響創立70周年>の2か年に渡るアニバーサリーイヤーに係る、今後の演奏会の最新情報をお知らせします。2026年4月の演奏会の指揮者・プログラム、および2026年7月の演奏会の日程が新たに確定しています!

269回(2025.4.19)の追加企画速報!
<漫画家とのコラボ冊子の発売>
約1か月後に迫った269回演奏会は、芥川也寸志生誕100年イヤーのメインとなるサントリーホールでの演奏会ということで、演奏以外の面でも様々な企画を検討しています。演奏会当日、会場ではCD等(新響のこれまでの発売CDのほか、指揮の坂入先生やソリストの石丸さん、松田さんのCDなど)の物販コーナー設置を予定しておりますが、中でも今回の演奏会のために打ち出した特別企画が「漫画家留守key×新響コラボ記念誌」の作成・発売です。留守keyさんは2名からなる創作マンガユニットで、これまでクラシック作曲家を題材にした漫画を多く製作・出版されています。学研から発売されている伝記漫画や、神奈川フィルなどのコンサート会場で、その日に演奏される作曲家を特集したマンガ冊子が販売されているのを目にされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、留守keyさんは芥川也寸志と新響のファンでいらっしゃり、もともと『芥川也寸志/交響三章』というマンガ作品を製作されています。今回、芥川生誕100年およびそれを冠した記念演奏会を盛り上げて応援したい、新響の活動を広く紹介したいという留守keyさんの熱い想いから企画を持ち込んで下さり、『芥川也寸志/交響三章』を新響エディションとして特別編集版に編み直し、演奏会場で発売することとなりました。
芥川也寸志の音楽家としての歩みがマンガで紹介されているほか、芥川先生が生前新響の演奏会等に寄せて書かれた文章や、芥川先生と直接繋がりのあった作曲家の徳永洋明氏による解説など、盛りだくさんの内容にて鋭意製作中です。維持会の皆様にも、4月19日の夜はぜひサントリーホールへお運び頂き、ホワイエの特設ブースでお手に取ってご覧頂ければと思います。

これからも新響が存続し、より良い活動を続けていくためにはどうすれば良いのか。特に今回お伝えした「広報」プロジェクトチームの仕事を通して、自分たちの活動について様々な方法で発信し続けることが、今後非常に重要になってくるのではないかと感じているところです。レベルの高い活動を続けていたとしても、それがルーティンになってしまっては、他の企画に埋もれ、時代の変化に取り残されてしまう。自分たちの活動を発信する際には、必然的に自らを省みたり、先々のことを考えたり、視野を広げて研究 分析をせざるを得なくなります。それを肥やしに、手を変え品を変え、外向きに、攻めの姿勢で、居場所を切り開き続けていくしかないのではないか。
令和のアマオケ運営に安住の地は無いようですが、今後も老舗ならではの経験と若手の行動力の双方を活かしながら、良い企画と良い演奏を発信し続けてまいります。どうか今後とも、新響への変わらぬ愛とご支援を賜りますようよろしくお願いいたします。