三善晃:管弦楽のための協奏曲
当団では2006年に創立50周年シリーズの幕開けとして、三善晃の「交響三章」を取り上げた。10年後の今年、創立60周年シリーズでこの曲を取り上げることで、当時の指揮者である故小松一彦氏との、「次は管弦楽のための協奏曲を」という約束をようやく果たすことが出来る。
三善晃は1933年東京生まれ。東京大学文学部仏文科に在学中の1953年に『クラリネット、ファゴット、ピアノのためのソナタ』が日本音楽コンクール作曲部門第1位となる。1955年から1957年にかけてパリ国立音楽院に留学、アンリ・シャランのクラスに学ぶ一方で、レイモン・ガロワ=モンブランに個人的に学ぶ。放送詩劇『オンディーヌ』(1959)で芸術祭賞とイタリア賞を受賞。1960年東大卒業。『ピアノと管弦楽のための協奏的交響曲』(1954)、『ピアノ協奏曲』(1962)、『管弦楽のための協奏曲』(1964)で、第3回、第11回、第13回尾高賞受賞。桐朋学園大学学長、日本現代音楽協会委員長、日本音楽コンクール委員長、東京文化会館館長等を歴任。1999年芸術院会員、2001年文化功労者となる。『遠方より無へ』(1979)など著述も多数ある。
実に多才で、『対話十二章 現代の芸術視座を求めて─三善晃対談集』(1989・音楽之友社)では、作家、建築家、詩人、能楽師、彫刻家、演出家、装幀家、画家、陶芸家、美術史家と対談しており、氏の博識には驚嘆せざるを得ない。
また、相撲好きなのは有名で、ある日、学生だった池辺晋一郎氏を芸大から車で送っていた時のこと。車の中では相撲の中継が流れていて、当時の横綱が負けてしまった時、池辺氏が「弱い横綱ですね」と言ったところ、それから一切口を開かず、そのまま新宿辺りで池辺氏を車から降ろしてしまった…というエピソードもある。
三善は合唱曲も多数作曲しているが、そのことが管弦楽曲の作曲に少なからず影響しているようだ。
日本語と変則的リズム
民族音楽あるいは近代音楽には、「5拍子」や「7拍子」などの変則的なリズムが時々見られるが、多くの場合、2または4拍子と3拍子の混合(複合)。つまり「2+3」なら「5拍子」、「4+3」なら「7拍子」になる。例えば民族舞踊のダンスの中で「手を2回叩いて(2拍子)、ぐるっと回る(3拍子)」というようなアクションを考えた時、これは「1・2」+「1・2・3」の「5拍子」がきわめて自然であることが分かる。
これに対し、三善が楽曲の中で使っている変則的なリズムについてはこの例とは多少異なるようだ。前述の演奏会のためのインタビューで、「合唱曲はもともと言葉の音楽で、日本語の音楽です。それは器楽曲を書く時も同じなのです。まったく変わらないですね。つまり器楽曲で日本語を書いている、という事がいえると思います」と語っている。作品の中に変則的なリズムが多くなっているのは、「言葉の音楽」で作曲されているためと言えるだろう。
その言葉の音楽で作曲され、変則的リズムを多用した曲に、1992年全日本吹奏楽コンクールの課題曲Cとして作曲された、吹奏楽のための「クロス・バイ・マーチ」がある。
マーチと銘打っているだけあって、2拍子で演奏出来るように構成されてはいるが、ガイドとして括弧書きで書いてあるように、実際は変則的リズムの連発である。速いテンポでめまぐるしく変化するリズム、しかも音域も広い上に細かい動きが多く、吹奏楽コンクールの課題曲としては最も難易度の高い楽曲だろう。この難曲を当時の高校生が見事に演奏しているが、日本の吹奏楽のレベルの高さを感じさせられる。
ちなみにこの「管弦楽のための協奏曲」も吹奏楽版にアレンジされており、同じく高校生による名演が残されている。
管弦楽のための協奏曲
一般的に協奏曲とは、独奏楽器(楽器群)と管弦楽による独奏協奏曲を指すことが常識となっているが、「管弦楽のための協奏曲」における「協奏曲」についてはバロック時代の合奏協奏曲などのコンチェルト様式を指している。この名称は、新古典主義のヒンデミットによって創り出された。
この楽曲について三善は、「私は、異なった持続を同時に組み合わせることを試みようとした。この不自由さは、おそらく作曲者の外側に、初めから存在しているものであったろう。そのことが前作(『ソプラノとオーケストラのための「決闘」』1964)のように内側から発想をとらえるのではなく、外から発想にかようものをリアライズしてみたい気持ちにかなっていた。それで、協奏という名も、この、組み合わせの試み、という意味でつけた。」と著書で回想している。
総譜の解説にも「この作品までは、内的な秩序に手がかりを得ていた音の追求を、はじめて、外的存在としての音と内的秩序の接点に求めてみたものです。」とあり、シェーンベルクの影響をうかがわせる意欲作となっている。
第1楽章 確保と二つの展開
木管・金管・弦それぞれの、三つの主題による二つの発展
動機の提示が3/8+4/8の速いテンポで行われる。楽曲が始まってすぐの音楽的緊張感によって、三善ワールドに引き込まれる。とにかくめまぐるしい変化がこの楽章の魅力。
第二楽章 複合三部
弦合奏のなかに他楽器の演奏を配した三部形式
第1楽章から一転して、叙情的な雰囲気の中にどことなく不気味な曲想が展開される。
第三楽章 変奏と復帰
一つの楽想を、各楽器群それぞれが独自にかたちを変えて初めから協奏する、その変容が各個別に一、二楽章の復帰を行う
第1楽章同様激しい音楽が復帰する。主題や和音が復帰、拡大される。ホルンの雄叫びをバックに一気呵成に楽曲が閉じられる。
初 演:1964年10月22日
オリンピック東京大会芸術展示(NHK 主催)
演奏/ NHK交響楽団
指揮/外山雄三
受 賞:昭和39年度芸術祭賞、尾高賞(第13回)
楽器編成: フルート3、オーボエ3(3番はコールアングレ持ち替え)、クラリネット3(3番はEsクラリネット持ち替え)、ファゴット3、ホルン6、トランペット4、トロンボーン3、テューバ1、ティンパニ、テューブラーベル、銅鑼(ゴング)、タムタム2、トムトム4、ボンゴ、吊シンバル、合わせシンバル、小太鼓、大太鼓、木魚1対、木琴、ヴィブラフォン、グロッケンシュピール、ピアノ、チェレスタ、ハープ、弦五部
参考文献
『遠方より無へ』三善晃 白水社2002年
『対話十二章 現代の芸術視座を求めて』三善晃 音楽之友社1989年
『日本大百科全書(ニッポニカ) 』小学館1984年
新響創立50周年シリーズを機に行われたインタビュー
http://www.shinkyo.com/concerts/p192-1.html