ワーグナー:歌劇「リエンツィ」序曲
リヒャルト・ワーグナーは1813年5月22日にザクセン王国(現ドイツ)のライプツィヒで生まれました。両親は音楽家ではありませんが、父親が演劇好きだったためかオペラ歌手や役者になった兄・姉もいました。
ワーグナーは数々のオペラ作品を生み出しましたが、作曲だけでなく、台本からすべて創作したのが特徴です。パリに滞在していた時、イギリスの作家エドワード・ブルワー=リットンの小説「コーラ・ディ・リエンツォ」を読んで「リエンツィ」のオペラ創作を思い立ちました。「リエンツィ」は彼のオペラでは3作目にあたり、初演時のワーグナーは29歳。「トリスタンとイゾルデ」や「ジークフリート」などの名作を生み出す前の若いころの作品です。「リエンツィ」は全5幕にわたる長大なオペラで約6時間かかります。第5幕のラストでは宮殿が燃えて崩れ落ちるなど演出面でも大規模でした。「リエンツィ」の初演が大成功したことで世間に知られるようになり、初演の翌年にはドレスデンの宮廷指揮者に就任しました。ワーグナーのオペラ1作目「妖精」は生前には上演されず、2作目「恋愛禁制」は初演で失敗し、なかなか結果を残せなかった彼にとって「リエンツィ」は出世作に位置付けられます。
■「リエンツィ」あらすじ
<第1幕>舞台は14世紀のローマ。貴族たちの横暴によりローマは乱れていました。民衆から信頼のあったリエンツィはローマのために護民官になります。護民官とは民衆の生命、財産を守るために設けられた官職のことです。貴族の息子アドリアーノはリエンツィの妹イレーネを愛していたので、リエンツィ側につきました。
<第2幕>貴族たちはリエンツィの暗殺を計画しますがうまくいかず、逆に捕らえられてしまいました。捕まった貴族の中にはアドリアーノの父親もいたため、アドリアーノはイレーネと一緒に貴族たちを釈放するようリエンツィに頼みました。彼は悩みましたが、貴族たちを釈放してしまいます。
<第3幕>釈放された貴族たちが反乱を起こしたので、リエンツィは戦い、そして勝利しました。しかしその戦いの中でアドリアーノの父親が殺されてしまい、リエンツィ側だったアドリアーノは苦しみます。
<第4幕>貴族たちを釈放したことによる反乱で多くの犠牲者が出たことから、民衆はリエンツィに反感を抱き始めました。父親を殺されたアドリアーノは民衆に呼びかけて、リエンツィに復讐しようと企みます。この時イレーネはリエンツィとともに生きることを決意しました。
<第5幕>宮殿で神に祈りを捧げるリエンツィのもとにイレーネがやってきて、リエンツィとともに生きる決意を伝えます。そこへ民衆が押しかけ、宮殿に火を放ちました。イレーネを助けようとアドリアーノが駆けつけた時、リエンツィ、イレーネ、アドリアーノの3人は焼け落ちる宮殿の下敷きになってしまいました。
■「リエンツィ」序曲
「リエンツィ」序曲にはオペラの中で使われている旋律やテーマが所々に登場します。
・曲の開始、区切りに用いられるトランペットは民衆に呼びかける合図。
・第5幕でリエンツィが神に祈りを捧げる場面で歌われる旋律。
・戦いのシーンでリエンツィが呼びかける聖霊の騎士の主題。
・第2幕でリエンツィを讃える行進曲。
初演:1842年10月20日 カール・ライシガー指揮
ドレスデン宮廷歌劇場にて
楽器編成:ピッコロ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、セルパン(本日はコントラファゴットで演奏)、ホルン4、トランペット 4、トロンボーン3、オフィクレイド(本日はテューバで演奏)、ティンパニ、大太鼓、シンバル トライアングル、小太鼓、リュールトロンメル(中太鼓)、弦五部
参考文献:
吉田真 『作曲家・人と作品シリーズ ワーグナー』音楽之友社 2004年
淺香淳編 『最新名曲解説全集第19巻歌劇Ⅱ』 音楽之友社 1980年
江藤光紀解説・ポケットスコア『歌劇<リエンツィ>序曲』日本楽譜出版社 2016年