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フランツ・シュミット:交響曲第1番

品田 博之(クラリネット)

■フランツ・シュミットは晦渋(かいじゅう)か?
 フランツ・シュミットはオーストリア=ハンガリー帝国プレスブルク(現スロヴァキアの首都ブラチスラヴァ)出身、ウィーンで活躍した作曲家でウィーン国立歌劇場の首席チェロ奏者でもあった。またオルガンやピアノの演奏も得意とした。シュミットと時代が近い主なドイツ・オーストリアの作曲家の生存期間を線表にしたのが下図である。代表作品などもごく一部だが記載した(“〇番”は交響曲の番号)。シュミットはマーラーやR.シュトラウスの後輩世代にあたり、プフィッツナーやレーガーといった、生前は脚光を浴びていたが現在では忘れられた感がある二人の作曲家とほぼ同世代である。シュミットの曲も彼ら二人と同じで派手な要素が少ないので、一般の聴衆にはあまり受けないと思われている。この同世代の二人と合わせて“三大晦渋作曲家”とでも呼びたくなる。一方で同世代のシェーンベルクらのように調性を放棄するような破壊的革新は行っていないので新しもの好きの受けも良くはない、ということでどっちつかずの評価を受けてきたようだ。

■シュミットは初めて聴いてもわかりやすい
 新交響楽団が最初に定期演奏会でシュミットの曲を取り上げたとき、その直前に商店街主催の手づくり音楽祭への出演を依頼された。定期演奏会のプログラムはあいにくシュミットの中でも一番晦渋と言われる交響曲第4番。音楽祭のために別の曲を取り上げる余裕はなくこの曲を演奏することになったのだが、多くのお客さんが退屈してしまうのではないかと危惧した。ところが、その時の指揮者で本日と同じ寺岡先生が演奏に先立ち、シュミット愛に溢れる熱いプレトークで作曲のいきさつや聴きどころを語ったためか、演奏中見渡した限り寝ている方は見当たらず、終演後は“シュミットって素晴らしい曲ですね”と複数のお客様から声をかけていただいた。そんなわけで事前に聴きどころを知っておけば実はとても楽しめる作曲家なのである。


■聴きどころ
 交響曲第1番はシュミットが25歳の時に完成した意欲作で、ウィーン楽友協会の作曲賞において審査員全会一致の一等賞を受けている。華々しく始まり堂々と終わるこの曲は交響曲の王道ともいえるもので個人的印象だがシューベルトの交響曲「グレート」を聴くような思いがする。ドイツやオーストリアのクラシック音楽の伝統を取り込んでおり、これはどこかで聴いたことがあるな、というのがたくさん頭に浮かんでくる。しかしそのままの引用はなくシュミット独特の苦みばしった個性的な和声がつけられているためかシュミット独特の響きがするのである。


 1楽章はニュルンベルクのマイスタージンガー前奏曲を彷彿とさせるカッコよい序奏で始まる。弦・木管楽器の付点リズムはバロック音楽のフランス風序曲のそれのようでバッハの管弦楽組曲第3番の華麗さも思わせる。その後のトランペットの歌うようなソロはブルックナーの交響曲第3番冒頭やマーラーを連想させる。


 2楽章の最初にクラリネットのソロで始まるハンガリー風の哀愁に満ちた旋律はシュミットの特長のひとつである。その後牧歌的なホルンに導かれて木管が奏でる幸せな部分では田園交響曲の第2楽章の小鳥の囀り(さえずり)やワーグナーのジークフリート第2幕の“森のささやき”を思い出す。この楽想は最後に金管のコラールとして再現し宗教的な幸福感に満たされる。


 3楽章は都会に出てちょっとあか抜けたブルックナーのようなスケルツォ。中間部はシュミットの真骨頂、世紀末ウィーンの気だるい甘さと破滅の予感。ラヴェルのラ・ヴァルスの世界と同じ匂いがする。


 4楽章はバロック音楽の壮大なリバイバル。オルガン曲や合奏協奏曲などを思わせる。対位法を駆使したバロック舞曲もしくはオルガン曲風の部分が少々長いが、だからこそそのあとの壮大な金管によるコラール到来が圧倒的である。これはブルックナーの第5交響曲第4楽章のようでもあるが、コラールの頂点で昇天したように終わるのはブルックナー。一方シュミットは“人間界”に戻ってきて明るく終結する。


初演:1902年1月25日 作曲者指揮 ウィーン演奏協会管弦楽団(ウィーン) (ウィーン交響楽団の前身)
楽器編成:フルート3(3番はピッコロ持ち替え)、オーボエ2(2番はコーラングレ持ち替え)、クラリネット2、ファゴット3(3番はコントラファゴット持ち替え)、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、弦五部


参考文献:
IMSLP Symphony No.1 (Schmidt, Franz)
https://imslp.org/wiki/Symphony_No.1_(Schmidt%2C_Franz)
参照日:2022年8月21日
Wikipedia 1. Sinfonie (Schmidt)
https://de.wikipedia.org/wiki/1._Sinfonie_(Schmidt)
参照日:2022年8月21日

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