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オネゲル:交響詩「夏の牧歌」

中條 堅一郎(クラリネット)

■作曲家略歴及び代表作
アルテュール・オネゲル(Arthur Honegger、 1892年3月10日−1955年11月27日)は、スイス人の両親のもとにフランスのルアーブルで生まれ、主にフランスで活動した20世紀の両国を代表する作曲家である。
音楽愛好家の両親のもと、作曲や音楽理論の手ほどきを受けるなかで、早くから作曲家を志すようになる。1911年、パリ音楽院に入学(同窓生にダリウス・ミヨーがいる)。1920年代から1930年代にかけて、「フランス6人組(当時流行していたロマン派音楽や印象主義音楽とは一線を画す、新古典主義音楽を志向する作曲家グループ)」の一人として、エリック・サティ、ジョルジュ・オーリック、ルイ・デュレ、ダリウス・ミヨー、フランシス・プーランクとともに活動し、人気を博した。その一方で、自身は敬虔なプロテスタントであり、後述のようにドイツ語圏のワーグナーやリヒャルト・シュトラウスなどに強い共感を持っていた。

その後、1921年に発表した劇的詩篇「ダヴィデ王」(1923年に交響的詩篇「ダヴィデ王」へと改訂)によって、6人組の一人としてではなく、独立した作曲家として高い評価を受けた。また、1925年には、蒸気機関車好きが高じて作曲した交響的断章第1番「パシフィック231」が評判となり、彼の独自性と創造力を世に示すこととなった。

1935年、15世紀フランスの英雄ジャンヌ・ダルクの生涯を描いた劇的オラトリオ「火刑台上のジャンヌ・ダルク」が作曲され、初演は熱狂的な大成功を収めた。

1945年以降は、あらゆる領域で新たな地平を発見するため、ヨーロッパの主要国を旅したが、1947年夏に訪問したアメリカで病に倒れ、帰国後はドイツやスイスに転地して療養しながら作曲活動を行う。「クリスマス・カンタータ」が最後の作品となった。

1955年にパリで没するまで、オネゲルはその生涯のほとんどをパリで暮らした。なお、スイスでは、オネゲルは一般にスイス人として認知されており、彼の肖像は20スイスフランの紙幣(1995年~2021年の旧札)にも刻まれている。

■作風
「新古典主義音楽」は、20世紀前半に主流となった芸術運動で、この音楽が目指すスタイルは、端的に言えば「感情から独立した、どちらかといえば形式主義的な音楽づくりを重視し、バロック的な形式性を取り戻すこと」とされている。

オネゲルは、この新古典主義音楽を志向するグループに属し、伝統的な形式や調性を維持しつつも、一方で感情や主観を前面に出す「ドイツ・ロマン主義」も取り入れながら、多様な要素を組み合わせるという彼独自の音楽的アプローチを取っている。

特に、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」など、音楽とドラマを密接に結びつける手法に共感し、自身の作品にも反映している。また、リヒャルト・シュトラウスの巧みなオーケストレーションからも影響を受け、和声の豊かさや効果的な音色を追求している。

その結果、彼の音楽は情緒豊かで、「独自の」和声法や半音階技法が巧みに使用された重厚なものとなっている。また、彼の作品は交響曲、室内楽(クラリネットのための小作品もある)、オペラ、劇付随音楽、バレエ、映画音楽など、幅広いジャンルに及んでおり、多様性と創造性にも溢れている。

■交響詩「夏の牧歌」(Pastorale d'’été)
この作品は1920年、彼が28歳の夏、両親の故郷であるスイスのヴェンゲンで休暇を過ごしていた際に作曲した叙情的な小品である。フランスの詩人で、同じファーストネームを持つアルテュール・ランボーの詩集「イリュミナシオン」の中の一節「私は夏の曙を抱いた」というフレーズに霊感を得たオネゲルは、アルプス地方の朝の清浄な空間を、おだやかな抒情と精妙なオーケストレーションで描き出している。弦楽アンサンブルに木管五重奏を加えたコンパクトな楽器編成も、この作品が持つ雰囲気に大きく寄与していると練習のたびに感じる。フル・オーケストラの交響曲第3番「典礼風」との対比も面白い。

交響詩のため単一楽章で切れ目なく演奏されるが、三部形式で構成されており、演奏時間は約8分と短い。
第1部は、揺れるようなリズムの上にホルンがのどかな牧歌を奏でるように始まる。弦楽器が息の長い旋律を奏で、小鳥のささやきを模したフルート、クラリネットのフレーズも遠くから聴こえてくる。教会旋法の一種が採られており、全体的にどこか神秘的で、厳かな雰囲気が漂う。

第2部では、クラリネット、フルート、ファゴットが民族舞曲風の新しいメロディを奏で、これがいろいろな楽器に受け継がれて曲が進行する。このメロディは、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」の第1楽章を連想させる。

第3部では、最初の主題が再現され、夕闇を告げるような静かなコーダで全曲が結ばれる。
この作品は、友人であり、「フランス6人組の7人目」ともいわれたフランスの作曲家・音楽評論家のロラン=マニュエルに献呈された。また、この曲の好評が、オネゲルの作曲家としての名声を固める一歩となった。

初 演:
1921年2月17日 パリ・サル・ガヴォーにて ウラディミール・ゴルシュマン指揮、ゴルシュマン管弦楽団
*作曲賞(ヴェルレー賞)の本選会を兼ねたコンサートにおいて、聴衆による人気投票で第1位に選ばれた。

楽器編成:
フルート1、オーボエ1、クラリネット1、ファゴット1、ホルン1、弦五部

参考文献:
遠山菜穂美解説「オネゲル 夏の牧歌」全音楽譜出版社  2019年
「クラシック音楽好きのための情報サイト」
http://classical-music.fun/arthur-honegger-work/
Wikipedia「アルテュール・オネゲル」「夏の牧歌」
https://ja.wikipedia.org/wiki/
(アクセス日:すべて2024年5月31日)


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