第158回演奏会のご案内
7月6日の158回演奏会では、新響はストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭曲」、ショスタコーヴィッチの交響曲第5番に挑みます。
今世紀を代表する2人のロシア〜ソビエトの作曲家の代表作というばかりでなく、まさに今世紀が生んだオーケストラ音楽の代表作と言ってもよい2曲でしょう。曲にまつわるエピソードの豊富さや、演奏される頻度、録音の数、聞き比べの楽しさ等々、双璧といってよい2曲ではないでしょうか。
オーケストラの機能面の実力が問われるプログラムですが、そのような面をさらに踏み越えて、ハートの伝わる演奏会にすべく、挑戦していきたいと考えています。
そして指揮に迎えるのは今回初めて新響の指揮台に立つ、井崎正浩です。井崎は将来が嘱望されている期待の大器。新響の音楽の新たな面を掘り起こしてくれるのではと期待しています。(K.S)
<新しい星、井崎正浩先生に期待する>
とにかくダイナミックで、かっこいい指揮者の指揮者の登場である。と書くと、ただうわべだけの棒振りと受け取られてしまいそうだが、音楽は声楽に基礎を置くオーストリア仕込みの正統派そのもの。その上で、独自の新鮮な音楽を追及していく姿勢は演奏する側にとって、また聞く側にとっても大変共感を覚えるものである。
国際コンクール2回目の挑戦で、見事ブダペストでの優勝を果たした井崎先生だが、これまでとくに音楽のエリートコースを歩んできたわけではない。いわゆる音大の卒業でもなく、地元福岡の大学からウイーンに留学したのもはじめは声楽をめざしたものだったが、そこで指揮の方に道を変更し、帰国後は学芸大の大学院に学びながら、アマチュアの合唱団やオーケストラの指揮をしながら研鑽を積んできた。
もちろん音楽家にとって学歴は何ら問題となるものではない。今や世界最長老の指揮者朝比奈隆先生も音大出ではないし、武満徹先生も音楽は全くの独学という。才能と地道な努力の積み上げ、それに人柄がわれわれを魅了する音楽を作り出す。
井崎先生とは、別のアマオケで指導していただいていて、10年ほど前からのお付き合いになるが、その音楽、指導力、人柄にはますます惹き付けられてきている。人柄は会っていただければすぐ分かるが、礼儀正しい、謙虚ではあるが、自信に満ちた頼もしい好青年である。かといって決して堅苦しい人物ではなく、練習後や合宿の飲み会でのエンタテイナーぶりは見事なものだ。
井崎先生はその優れた音楽性に加えて、大変な勉強家である。たいていの曲は完全に暗譜で振れるようになるまで頭にたたき込む。また指揮は大変分かりやすい。こちらが見やすいように、分かりやすいように振ってくれる。どんな振り方もできてしまう器用さはわれわれアマチュアにとってはありがたいのだが、むしろ器用貧乏を心配してしまう程である。
かつてのヤマカズ(山田一雄)先生は棒は分かりにくかったが、音楽にはわれわれは本当に魅せられた。井崎先生にもなおいっそうハートのある音楽、チャレンジのある音楽を期待したい。
コンクール優勝後、音楽と人間の幅に一段と広がりが出てきた井崎先生にはこれから指揮界の若手の星として大いに活躍し、さらにはそれにとどまることなく世界的指揮者への道を期待したい。先生はそれに必ず応えてくれるものと確信している。
(岡本 明・新響ヴィオラ奏者)
第158回演奏会(1997年7月6日)ちらしより