第168回演奏会のご案内
●日本のブルックナー:諸井三郎
飯守とのプログラミングを考えていくうえで、以前からある案が温められてきました。それは、ワーグナーやブルックナーなどのドイツ・オーストリア音楽のポリフォニーに対する熟練した手腕と本質に迫る構築力を持つ飯守の指揮で、日本人では最もドイツ的な語法を持つといえる諸井三郎の作品を演奏したい、というものです。
諸井三郎(1903-1977)は、ベートーヴェンの音楽を聴いて作曲家を志し、ベルリン高等音楽学院で学びました。ドイツ・アカデミズムと呼ばれた諸井の作風は、論理的な構築力を持ち、ブルックナーを彷彿とさせるものがあります。
戦争末期の1944年に作曲された<静かなる序曲>という副題を持つこの「交響曲第3番」は、出口の見えない暗雲たれこめた時代の、諸井自身のことばで語りかけた清らかな「祈り」を象徴した作品です。作曲家諸井にとって、音楽理論から音楽思考への変化を感じさせる作品として、貴重な作品といえるでしょう。本作品の演奏は、好評を博した新響40周年記念シリーズの第154回演奏会「日本の交響作品展'96」(96年7月7日)の再演となります。
●ブラジルとバッハの融合
ブラジルの作曲家ヴィラ=ロボス(1887〜1959)は、音楽好きの家庭に生まれ、小さい頃からチェロを弾き、音楽に慣れ親しんでいました。
バッハを敬愛し、バッハの音楽が持つオリジナリティと普遍性を自らの音楽に実現させることこそが、ヴィラ=ロボスの理想でした。やがて彼は、ブラジル各地の民族音楽を採集した成果と、バッハの音楽とを融合させた9つの「ブラジル風バッハ」を完成させ、世界的な名声を得ることになります。
このうちチェロアンサンブルのための「第1番」やソプラノと8本のチェロのための「第5番」は比較的ポピュラーですが、オーケストラ曲である2、4、7,8番はいずれも優れた作品ながら、演奏される機会がほとんどありません。
今回の「第7番」(1941年)は、古典的な様式感とブラジルの力強く美しい自然を感じさせてくれる、コントラストの見事な作品で、終楽章では哀しみを帯びた旋律が「祈り」の大きなフーガに展開します。ヴィラ=ロボスの作品の中でもひときわ輝く作品といえるでしょう。
●3つの「祈り」
シューマン(1810〜1856)は、1850年に交響曲第3番「ライン」を作曲しました。この曲はドイツ・ライン地方の美しい自然風景がいたるところで奏でられる明るい作品となっています。しかし、作曲の動機になっているケルンの大聖堂の荘厳さを見て、シューマンは、自分自身から体と心が乖離しつつある苦しみから逃れるための「祈り」(第4楽章)を感じずにはいられなかったように思われます。
*
今回とりあげた曲は、いずれも音楽の普遍性を求めた作曲家たちの、ヨーロッパ音楽が脈々と受け継いできた音楽様式に対する敬意と、祖国に対する愛や誇りとが感じられる作品です。作品が生まれた風土は異なるものの、3つの作品の壮麗なハーモニーの中に託された、それぞれの作曲者の「祈り」をお聴きいただければと思います。
新交響楽団プロフィル
1956年創立。音楽監督・故芥川也寸志の指導のもとに旧ソ連演奏旅行、ストラヴィンスキー・バレエ三部作一挙上演、10年におよんだ日本の交響作品展(1976年にサントリー音楽賞を受賞)などの意欲的な活動を行ってきた。最近ではマーラーの交響曲全曲シリーズ(故山田一雄指揮)、ショスタコーヴィチ交響曲第4番日本初演、日本の交響作品展91、92(石井眞木指揮)などの演奏会、また93年9月にはベルリン芸術週間に参加して3邦人作品をフィルハーモニーで演奏するなど、積極的な活動を行っている。96年には創立40周年記念シリーズでワーグナー「ワルキューレ」の演奏会形式公演(飯守泰次郎指揮)、「日本の交響作品展'96」では1930〜40年代の知られざる作品を発掘するなど、各方面から注目を集めている。
第168回演奏会(2000年1月29日)ちらしより