第172回演奏会のご案内


●新響の新たな取り組み一イギリス作品特集

これまで新響は44年の歴史の中でさまぎまな試みを行ってきました。例えばストラヴィンスキーのバレエ三部作を一挙に上演したり、上演の機会が少ない日本人作曲家の作品を特集したり、また最近では新響の音楽的な可能性をさらに広げるためにワーグナーの楽劇へも挑戦しました。
そして2001年1月、初めて「イギリス作品」を特集します。数多いイギリス作品の中で今回取り上げるのはウォルトン、プリテン、ホルストというイギリスの代表的な作曲家による作品で、さらに指揮には生粋の英国人であるジェームズ・ロックハート氏を迎えます。新響の新たな試みとなる演奏会に、最もふさわしい指揮者とともに優れた作品に取り組めることは私たち団員にとって大きな喜びです。

●若き才能ほとばしるウォルトンの「ポーツマス・ポイント」

わずか20歳で朗読と室内楽のための奇抜な作品「ファサード」を書いて英国作曲界に革命的な影響を与え、作曲家としての地位を確立したウォルトンが次に書いたのが、序曲「ポーツマス・ポイント」でした。
曲には「トマス・ローランドソンのエッチングによるフル・オーケストラのための序曲」という長い副題が付けられていますが、英海軍の本拠地である軍港ポーツマスの若者たちの活気に満ちた情景を強烈なリズムとシンコペーションで描いており、冒頭からウォルトンの若き才能と意欲あふれる作曲家魂をうかがわせます。このリズムパターンは、ジャズに由来しながらも、いわゆるハーレムとは異なる世界を表すため、ジャズの和声とは切り離された「リズム」を用いて成功した典型的な作品とされています。

●ブリテンの新たな側面

ブリテンは多才な作曲家です。「青少年のための管弦楽入門」のような教育に情熱を傾けた曲もあれぱ、新響が以前演奏した「シンフォニア・ダ・レクイエム」のように重いテーマを背負った作品もあります。今回演奏する「四つの海の間奏曲」は歌劇「ピーター・グライムズ」の中の間奏曲ですが、軽妙洒脱な曲や抒情的な曲が並んでいます。

●ホルスト「惑曲」・・・その神秘なるものへの誘い

荒々しく思わず身構えて緊張感を募らせるような曲、どこかで聞いたことがあるような懐かしい響き、そして遠くまで澄み渡るような終曲。ホルストの「惑星」は初めて聞く人にもいろいろな想像をふくらませてくれます。
ホルスト自身は「諸惑星の占星術的な意義が着想のきっかけにはなったが、その内容は標題音楽とは全く関係ない。そして同名の神話の神とも何ら関孫はない」と神話との関係を否定していますが、どうしても私たちは「惑星」に遥かに広がる宇宙へのあこがれや、夜空を彩る星々の、知性を超えた美しさといった神秘的なものを感じざるを得ません。
この曲は火星、金星、水星、木星、土星、天王星、海王星の7曲から成っていますが、1914〜1916年の作曲当時に冥王星まだ発見されていなかったので、この組曲には入っていません(発見は1930年)。しかし昨年5月、英国人作曲家であるコリン・マシューにより新たに「冥王星」が作曲され、ケント・ナガノ指揮によりドイツのハレ管弦楽団が初演しました。新響でも「冥工星」の演奏を検討いたしましたが、作風の統一性などの点からやはりホルストが作曲したオリジナルを演奏することが好ましいと結論づけました。ありのままの姿がもっとも美しいのは「惑星」であるからかもしれません。
新響の「惑星」は2回目ですが、「木星」を中心によく知られている作品にもかかわらず、イギリス音楽として真正面からとらえることは、意外に少ない曲のようにも思われます。今回は本場・英国人指揮者による英国作品展です。どうぞ、存分にお楽しみください。

●ジェームズ・ロックハート(指揮)

英国スコットランド生まれ。スコティッシュ・オペラ指揮者、英王立音楽院教授、BBC放選響首席客演指揮者、英王立音楽院オペラ科指揮者などを歴任し、現在は東京芸術大学音楽学部指揮科客員教授、英王立音楽院オペラ科顧問。これまでにロンドン・フィル、フィルハーモニア管、バーミンガム市響などの英国の主要オーケストラをはじめ、ベルリン放送響、ライプツィヒ・ケヴァントハウス管、イスラエル・フィルなど世界の名だたるオーケストラを指揮した。(K.K.)

第172回演奏会(2001年1月27日)ちらしより


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