2001年9月維持会ニュースより


フランスのワグネリアン、ダンディ

吉川 久(トロンボーン)

ダンディの生涯

 ヴァンサン・ダンディ(Vincent D'Indy 1851.3.27-1931.12.2)はフランスの作曲家で、フランク(1844−1924)の弟子として、ショーソン(1855−1899)と並び、近代フランス音楽界の中心的な役割を担った作曲家・教育家です。
 ダンディは、南フランスのヴィヴァレー地方出身の貴族の家に生まれましたが、幼くして父母を亡くしたため、祖母に育てられることになります。祖母の厳格な道徳教育と音楽教育を受け、さらにピアノをマルモンテルに、11才から3年間はディエメールに学び、ラヴィニヤックには14才から和声、16才からは楽器法の初歩を学び始めました。祖母の方針によりこれらの音楽教育を受けたことは、ダンディの生涯にとても大きな影響を及ぼしたようです。
 19才のとき普仏戦争(1870―71)で従軍しますが、翌年の帰還後は音楽に専念しフランス国民音楽協会に加盟します。21才(1872年)のときデュパルクを通じてフランクに師事するようになってから、さらに飛躍します。22才の1873年からはパリ音楽院オルガン科のフランクの教室に入り、対位法・フーガ・作曲法を学び、後の1875年には1等賞を獲得するに至ります。この間の1873年にドイツへ旅行し、リストやのちに大きく影響を受けるワーグナーに会っています。
 ダンディは、23才(1874年)で序曲「ピッコロミニ」で作曲家として正式デビューし、24才(1875年)では同時にコロンヌ管弦楽団の合唱指揮や打楽器奏者を務めるなど、オーケストラの実地経験を積んでいます。24才(1875年)に結婚、翌1876年にバイロイトへ赴いて「ニーベルングの指環」の全曲初演を聴きます。このときの大きな衝撃はダンディ自身を大きく変え、以降強烈なワーグナー崇拝者として作風が大きく影響を受けます。
 31才(1882年)にはワーグナーの「パルジファル」を聴き、これを理想的な劇作品と考えたようで、十数年後のオペラ「フェルヴァール」の創作につながります。そして35才(1886年)には、フランス国民主義に意識的に向かってアルデーシュ地方で採集した民謡にもとづいたフランス後期ロマン派の最高傑作とも言われる「フランスの山人の歌による交響曲」を創作・発表し、ついにフランス楽壇の頂点に立つことになります。

 以降は、ラムルーが「ローエングリン」をパリで初演した際(1887年36才)には合唱指揮者として参加します。39才(1890年)のときにフランクが亡くなり、こののち55才(1906年)の時に師フランクの人柄や作風をまとめた著作「フランク」を出版することになります。
 46才(1897年)のとき、ブリュッセルのモネ劇場でオペラ「フェルヴァール」を初演し、「フランスのパルジファル」として高い人気を得ます。54才(1905年)には北米演奏旅行をおこない、ボストン交響楽団を指揮して自作交響曲のほかフランスの新しい音楽を紹介しています。
 ダンディは老年とともにフランスの伝統的なスタイルに戻っていきます。第一次世界大戦(1914−1919)以降は、生活の変化につれて作風もより軽く明るくなり、室内楽を集中して書きます。作風も厳格な中にも典雅さが漂うようになり、1880年代に始まった民謡編曲への関心が晩年に向かうほど強まってきたようです。
 こうして長期にわたる多面的な活動で、ダンディはフランス楽壇に大きな足跡を残した作曲家の一人なのです。

作品「魔の森」について

 「魔の森」op.8は、ダンディが「ニーベルングの指環」の全曲初演を聴いた2年後の27才(1878年)に作曲された交響的物語で、「ウーラント(訳注:ドイツの詩人)の物語詩による伝説交響曲」という副題がついています。ダンディ自身、この曲で以降の創作を生み出す大きな自信を得たようです。この作品からワーグナーの作品に一脈通じるドラマティックな音楽を聴き取っていただければ幸いです。演奏時間は約15分です。
 ※作品名については「魔の森」のほかに「魅惑の森」という訳語もあり、また「魔法の森」という表現も可能ですが、当団では作品名と曲の印象等を検討した結果「魔の森」を採用しました。

新響とダンディ

 新響でダンディを演奏するのは今回が初めてです。1991年に亡くなられた山田一雄先生は、フランス後期ロマン派の最高傑作とも言われるダンディの「フランスの山人の歌による交響曲」の日本初演をおこない、新響でもぜひダンディを演奏したいと希望されていたようですが、残念ながら実現しませんでした。
 今回は、日本におけるワーグナーなどの作品の演奏において多大な貢献をされたという理由で第32回サントリー音楽賞を受賞したマエストロ飯守泰次郎指揮のもとで、このワーグナーの影響を受けたダンディの作品をお聴かせできることは、我々にとっても大きなよろこびのひとつです。ぜひご期待ください。

<参考文献>
新音楽辞典(音楽之友社)
新訂標準音楽辞典(音楽之友社)
大作曲家の生涯<中>(共同通信社:ショーンバーグ著、亀井旭・玉木裕共訳)
ワーグナーヤールブーフ「特集=パリ」(東京書籍:日本ワーグナー協会編)


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