2005年9月維持会ニュースより


シベリウス バイオリン協奏曲 ニ短調 作品47

前田知加子(ヴァイオリン)

維持会員の皆様こんにちは。新響のバイオリンの前田と申します。(今回の演奏会で2ndVnトップを務めます。)現代ロシアを代表するバイオリニスト・チェボタリョーワ氏が、新響の練習に来られるまでの期間、僭越ですがリハーサル時のバイオリンソロの代奏を担当しています。

今日このシベリウスのバイオリン協奏曲(Final 1905 version)は、世界中で最も頻繁に演奏される曲の一つだと思いますが、バイオリンのテクニックの面からは大変な難曲です。簡単にその度合を申し上げると、私の個人的感覚ではメンデルスゾーン、ブルッフの8倍、チャイコフスキーの5倍ぐらい、ブラームス、パガニーニ、バルトークよりも更に難しいというのが実感です。

個人的な話で恐縮ですが、1995年から8年間NYに滞在中、ご縁があってエマーソンSQのユージン・ドラッカーに師事していました。先生の得意な協奏曲であるチャイコフスキーやバルトーク2番、ブラームス(E・ドラッカーの師は巨匠であるオスカー・シムスキーです)の他、シェーンベルクのファンタジーや様々なリサイタルピースを勉強した後、自分にとってはちょっと息抜きに名曲路線と思い、それまで一度も手をつけなかったシベリウスにすると言うと、“この曲は本当にdifficultだよ”と釘を刺されたのを覚えています。先生がdifficultと言ったのは後にも先にもこの曲だけでした。バイオリンをいつも弾いている人、専攻している人すら、曲を聴いたぐらいではあまり難しいと思わず、勉強し始めて1楽章の終わりと3楽章にさしかかって青ざめたという人は私だけではないでしょう。

余談はこれくらいにして本題に入ります。

若い頃バイオリニストを志し、その後作曲家としての道を歩むことになったシベリウスの唯一のバイオリンコンチェルトは1903年(時期としては第2交響曲と第3交響曲の間)に作曲された。翌年1904年2月8日ヘルシンキにてヴィクトル・ノヴァチェクのバイオリン、シベリウス自身の指揮によって初演。しかしその後推敲を重ねて改作し、1905年今日の形としました。(シベリウスは1904年にヘルシンキを離れて田園地帯に移りトゥースラ湖の近くに建てた家<アイノラ>で後半生を過ごし作曲に専念。)

驚くべきことに20世紀の作品ではありますが、シェーンベルク、ストラヴィンスキーに代表される当時の新しい芸術思潮とは一線を画します。

第1楽章 アレグロ・モデラート ニ短調 2分の2拍子
この第1楽章にきわめて強い意欲が示され、規模も大きいです。交響的でありながらしかも幻想的です。ソナタ形式の痕跡をとどめているとはいえ、極めて独創的。
カデンツァが楽章の中央に位置しています。それはメンデルスゾーンらによって再現部の前に移されてきたものを、さらに展開部的な位置にもってきたとも考えられています。
カデンツァの後3つの主題を再現しますが、弾いていて大変不思議なことがあります。Molto moderato e tranquillo(叙情的なフレーズの所)のことですが、全く同じ主題が再現されるのに、拍子とリズムが違い(聴いているとほとんど同じ様に聞こえる)、1回目は2分の2から4分の6に変えられていて、オケと合わせ辛くトリッキーです。なぜその様なことをしたのか、もしシベリウスが生きてそこに居たらぜひとも聞いてみたい箇所です。
最後のコーダ部分Allegro molto vivace からのソロバイオリンのオクターブでの行き来の難しさは格別です。最初にこの曲を学習する人は大抵あそこでこのテンポで弾くことの練習に追われることでしょう。

第2楽章 アダージョ・ディ・モルト 変ロ長調 4分の4拍子
自由な3部形式によるロマンツァ風の楽章。
他の楽章に比べてソロバイオリンは平易なので、ほっとして音楽に集中できる楽章。(あくまで私の場合の話です。チェボタリョーワさんはきっとどの楽章も軽やかに見事に音楽に集中して演奏されると思います。)

第3楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ ニ長調 4分の3拍子
ヴィルトゥオーゾ的な効果を発揮させた超難曲。私のケースではソロの練習の9割はこの楽章でした。
付点のリズムで始まる第1主題には、パガニーニのカプリースを思わせる様な3度の重音で駆け上がるパッセージがあります。先日のリハーサル後、オーボエS氏の“こんなの簡単な所だろ。なんかテンポが合わないんだよな。”にショックを受けた私でした。
第2主題は、子供でも歌えるような郷土舞曲風旋律。2重音3重音4重音を素早く行き来する左指のテクニックは、昔はやったツイスターゲーム(自分の色の丸の所に自分の手足を交差してでも置かなければいけない)を指で行ったもの。全楽章中最も難しい箇所だと思います。

最後になりましたが、数あるシベリウス・バイオリン協奏曲のCDの中で維持会の皆様にぜひお薦めしたいものがあります。

世界中で演奏されている1905年版は聞き飽きたという方は、オリジナル・ヴァージョン(1903年)をぜひお聴き下さい。レオニダス・カヴァコス( Leonidas Kavakos )のバイオリンで、ラーティ交響楽団( Lahti Symphony Orchestra)というフィンランドのオーケストラの演奏。両方のヴァージョンが収められていて聴き比べが可能。国の威信をかけて作られたかのようなすばらしい演奏です。<BIS CD-500>


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