2003年6月維持会ニュースより
シューマン・交響曲第2番 ハ長調 作品61
藤澤 義光 (コントラバス)
シューマンというと、真っ先にイメージされるのは「トロイメライ」を書いた人であるとか、歌曲の大家というものではないでしょうか?不思議とシューマンの管弦楽曲は、あまりイメージされないのが一般的ではないかと思います。それが故にシューマンがいつ頃の作曲家であり、どのような音楽的な系譜の位置付けにあるのかを意識されていないことが多いと思います。
シューマンは、ベートーヴェン、シューベルトの直後に活躍した作曲家であり、ブラームスの天才を発見した人なのです。つまり、音楽的な系譜でいえば、ベートーヴェン→シューベルト→シューマン→ブラームスなのです。特にブラームスに関しては、シューマン直系の後継者なのです。
そうすると、シューマンの交響曲は純ドイツ音楽であるという風に思われると思います。確かに、ベートーヴェンと同時期のベルリオーズなどに比べると、その書法は古典的ではあります。しかし、実際に耳にする響きが純ドイツ的であり、ベートーヴェン的であるかと言えば、そうではないと思います。どちらかと言えば、後継者であるブラームスの方がよほどドイツ音楽らしく聞こえます。シューマンの交響曲は、ドイツ的でありながら、どこかロマン派や印象派的な響きが聞こえてきたりとつかみ所のない印象を受けます。それは、シューマンの性格にも由来されるのではないでしょうか。
シューマンは、あらゆるところで相反する二つの側面を持っていたと言われています。例えば、芸術を勉強する傍ら、法学を勉強する(父親の指示です)。そうすると、どちらを本業とするかを振り子のようにいったりきたりします。そして、芸術だと決めてからも、詩人と作曲家との間を振り子のように揺れていきます。特に、詩か曲かというのは、シューマンにとって決めがたい大きな二面であったのです。それは、初期の歌曲が詩偏重になるか、曲偏重になるかというところに見受けられます。ここに書いたのは一例に過ぎませんが、シューマンが後に精神的な病に倒れるのも、基本的に決めがたい二つのものの間で絶え間なく揺れているような繊細な性格の持ち主であることが影響しているのではないかと思います。
さて、本題の交響曲二番について簡単に述べさせていただきます。この交響曲は、『第2番』というナンバリングがされていますが、実はシューマンにとっては「3番目」の交響曲となります。シューマンが1番目の交響曲『第1番』《春》を作曲したのが1841年、その第1番と同じ年に「2番目」の交響曲となる『第4番』を作曲し、初演を行いました。しかし、あまり評判が芳しくなかったために出版を取り止め、後の1851年に作者自身によって作りなおされ、改めて1853年に初演を行いました。
そこで、この2番目の交響曲に『第4番』という銘がうたれ、事実上の3番が『第2番』となったのです。
この『第2番』は、前の2曲を作曲した4年後の、1845年年末に取り組み始められた作品です。曲の構想は年内に完成したのですが、総譜の完成には1846年の10月までかかったそうです。初演は11月(メンデルスゾーン指揮!)で、この曲も初演ではできがよくなかったため、直後に行われた2度目の演奏までにシューマン自身が総譜に手を加えたのでした。
この完成に長期間費やしたのには、彼の病気と関連があるそうです。1843年初め頃からシューマンは精神疾患を患い、44年には療養のため転居をします。45年、一旦は回復していくつかの作品を発表しますが、46年に再び激しくなり、シューマンは病気と闘いながら仕事に取り組んだそうです。
その影響か、どこか捉えどころのないところが随所に出てきて、演奏するのに非常に苦しみます。
では、簡単に各楽章の解説をしたいと思います。
♪第1楽章♪
冒頭は弦楽器の伴奏の上に、ホルン、トランペット、アルトトロンボーンが動機を演奏し、25小節から運動性が増します。第1主題は弦楽器が演奏。ここで全体的に盛り上がりをみせていきます。この盛り上がりは一旦終結したあと、もう一度繰り返されます(呈示部)。この中で使われる分散和音形と音階形が1楽章では何度も使われます。繰り返しの直後もこの音形を経て、1st、2ndヴァイオリンの掛け合いから、再び音階形、第1主題、・・・と続き、短い終結をはさんで、またもや第1主題が復帰してきます(展開部)。呈示部とほとんど同じ経過の再現部を経て、比較的長めの終結部に入ります。
♪第2楽章♪
スケルツォ−トリオ(中間部)1−スケルツォ−トリオ2−スケルツォという曲の流れになります。スケルツォは16分音符のパッセージが延々続きます。トリオ1は3連音符が、トリオ2はゆったりとした音形が特徴です。3回目のスケルツォは、途中からスピードをあげてコーダに突入します。この楽章は1st.ヴァイオリンが非常に大変な楽章です。
♪第3楽章♪
ロンド的構成(A−B−A−C−A−B−A)。2楽章から一転、相当なスローテンポになります(聴衆の方がよく寝てしまう楽章です)。
ヴァイオリンの主要主題にはじまり、オーボエに受け継がれます(A)。そこからホルンの分散和音、木管の音階的な音形の繰り返しへ続きます(B)。続く部分は16分音符のスタッカート音形とシンコペーションが特徴ですが(C)、すぐにAが木管の主要主題によって現われます。(弦楽器はCの音形での伴奏を続けます。)この後、Bの音階的音形から3度目のA(2度目のAと同じ)、短いコーダ(終結部)を迎えます。
♪第4楽章♪
今度は8小節の上昇音形(序奏)から、行進曲風の力強い第1主題ではじまる楽章です。3楽章で寝てしまったお客様を叩き起こす効果があります。この後、1stヴァイオリンの音階風のパッセージ、断片(3楽章冒頭の音形の変形)を経て、高調に達し、推移部から全合奏で第1主題が復帰します。次に冒頭主題(序奏)の展開、3連音形をへて、だんだんに静かになり、ハ短調の和音で前半が終わります。
後半部は全く別の主題が用いられており、上昇音形やほかの楽章の断片を材料としながら曲全体の終結部という雰囲気を出しています。途中、楽器によって2拍子と3拍子が絡み合い、弾き手を苦しめてくれます。これは、やはりシューマンが精神病疾患を患っていたからでしょうか?最後はティンパニの力強い連打と、ハ長調の和音によって終結します。
曲目の解説を書いていると、やはり古典の曲だと感じますが、皆様はいかがお感じになるでしょうか?今回の解説には筆者の主観がかなり入っております。是非、ご来場いただき、ご自身の耳で判断していただければ幸いだと思います。