2003年4月演奏会パンフレットより


「中国の不思議な役人」の不思議な物語

箭田 昌美(ホルン)



                        
 本日、演奏するバルトークの「中国の不思議な役人」はハンガリーの詩人レンジェルによるグロテスクなパントマイムと題された物語のために作曲された音楽です。ですから音楽と物語を結びつけて聴いて頂ければ、より音楽を楽しんで頂けるものと思います。以下に物語のあらすじと音楽の関係を簡単にまとめましたので、このガイドをご覧になりながら演奏をお楽しみ頂ければと思います。

ご注意 物語の内容は退廃的でエロティックでグロテスクなホラーといった趣があります。そのような話はお好みではないという方はこれを読まずに純粋音楽として演奏をお楽しみください。
経過時間はおよその目安とご理解ください。

舞台:悪党共が盗品を隠すための、都会のアパートのみすぼらしく汚い二階の部屋
登場人物:3人の悪党、ミミ(少女)、年老いた伊達男、少年、マンダリン(中国の役人)

(0’00) (経過時間 0分0秒)
喧騒的で激しい音楽から始まる。徐々に収まる。
(0’20)
隠れ家であるアパートの一室に三人の悪党と若い女ミミがいる。
悪党2がポケットをまさぐって金を捜しているが、金はない。(ヴィオラ)
悪党3はテーブルの引き出しや戸棚を探るが、やはり何もない。(ヴァイオリン)
悪党1がベッドから起きあがってミミに近づき金を奪うため窓辺に立ち通行人を誘惑するよう命じる。(チューバとトロンボーンに始まる金管楽器の強奏)
他の二人も承知するが、ミミは嫌がる。悪党達は無理やりミミを窓辺に連れて行き3人は隠れる。

(3’20) あきらめたミミは窓辺から手招きをして通りの男を誘惑する。(クラリネットによる1番目の誘惑)ミミは年老いた伊達男と目が合う。彼はすぐに階段を上がってくる。

(4’40) 伊達男は奇妙な求愛の仕草をする。(トロンボーンのグリッサンド)
ミミが「お金、ある?」と聞くと、男は「お金など重要ではない。愛がすべてだ」と言う。(コールアングレ)
男はますますしつこくミミを追い回す。
(6’40) ついに3人の悪党が飛び出し、老人を掴んで放り出す。(全奏 刻みの下降音形)
そしてミミに再び窓辺に立って男を誘惑するよう命じる。
(7’00) 再びミミは窓辺から通りの男を誘惑する。(クラリネットによる2番目の誘惑)

(8’15) ミミは2番目の男と目があう。はにかんだ少年が戸口に現れるが、どうして良いか分からず突っ立ったままでいる。ミミは少年が金を持っていないか確かめるが、金はない。(オーボエ)
しかし、ミミは少年を不憫に思い、男を引き寄せワルツを踊り始める。(ファゴット)
2人の踊りは情熱的になっていく。しかし又悪党共が飛び出し若者を掴まえて放り出す。
(10’20) 悪党共に「もっと金のある男を連れてこい!」と脅されたミミはまた窓辺に立つ。(クラリネットによる3番目の誘惑)

(11’30) ミミは気味悪い男(役人)と目が合う。役人はすぐに階段を登ってくる。3人の悪党は隠れる。(ミュートをつけたトロンボーンに中国風の旋律。この旋律の最初の短3度の下降音形が役人を表すモチーフでこの後に何度も出てくる。)

(13’20) 役人が部屋の前までやってくるが、入り口で動かない。(全奏でのff 役人のモチーフ)
ミミは怖がり後ずさりするが、悪党達はミミを役人の方へ押しやる。(静まった後の弦のピチカート)
とうとう覚悟を決めたミミはおびえながら役人を手招く。
(19’10) 「もっと近くにいらっしいませ」(フルート)
「何故突っ立ったまま私をじろじろ見るの?」(フルートとクラリネット)
役人は2歩進んで、又止まる。
「もっとこっちにきてこの椅子にお掛けなさい」(オーボエ)
役人は腰掛ける。だが、ミミからかたときも目を離さず見つめ続ける。ついにミミは何かをしなければならなくなりためらいながら踊り始める。(ワルツ)
踊りは徐々に高潮し、ついには野性的でエロティックなものになる。役人の目はずっとミミに注がれ、視線は欲望を高めてゆく。

(21’20) ミミは役人の膝に崩れ落ちる。彼は興奮の余り震え始める。(ホルンのグリッサンド)
しかしミミは彼の抱擁を嫌悪して飛び起きる。(トロンボーン)
ミミは後ずさるが、役人も手を伸ばしミミを捕まえようとする。(トロンボーンの掛け合い)

役人は逃げまどうミミを捕まえようと追い掛け回す。(原始的で力強い単純なリズムにのりビオラとチェロが躍動感のある力強い旋律を演奏し始める。音楽は高揚しクライマックスを構築する。)
役人はつまずき、転ぶ。(一瞬の中断)
しかしすぐ起きあがり、より激しくミミを追い回す。(トロンボーン)
(22’10)
ついに役人はミミを捕まえ、二人は床に倒れる。(全奏でのff のクライマックス)
3人の悪党が飛び出して役人を押さえ付け、宝石と金を奪い身ぐるみを剥いだ後、三人は殺すことを決意する。(金管に原始的な四分音譜の連続)
3人は役人を引きずり、ベッドに投げ出し、その上に枕や毛布、マットレス等を積み上げ、悪党の一人がその上に乗る。(うねるような重苦しい音楽)
悪党共はしばし待つ。(クライマックス、不協和音の強奏)
3人は「死んだ」と頷き合う。(静まった後の木管)

(24’20) 突然、役人の顔が枕の間から現れる。彼はぎょろついた目を凝らしてミミを見ている。三人の悪党は驚く。(チェロに4分音を伴った役人のモチーフ)
三人はベットから役人を引きずり出しどうしたら完全に殺せるか考える。(突然、早く激しい音楽。)

(26’00) 悪党の一人が錆びた長いナイフを取り出し、役人の腹を3回突く。(金管)
役人はよろめき、ほとんど崩れ落ちそうになる。(よろめくような下降音形)
が突然、役人はミミに飛びかかる。(木管の上昇音形)
3人の悪党は再び役人をしっかり押さえつける。
なおも役人は少女を恍惚と見つめる。(ミュートしたホルンに役人のモチーフ)
恐怖にかられた三人は再び役人をどう始末するか考える。「首吊りにしよう!」

(28’00) 悪党共はもがく役人を部屋の真ん中まで引きずり、役人の編んだ髪を首に巻き付け、シャンデリアのフックに吊す。(ピアノの不気味なグリッサンドの上に木管の上向音形)
シャンデリアが床に落ち、砕け散る。

(29’30) 吊された役人の身体は青みがかった緑色に輝き始める。(合唱)
3人の悪党とミミはおののきながら役人を見つめる。

(31’30) ミミは悪党に言う。「彼を降ろして!」(休止の後に突然のf )
悪党どもは彼女に従い、ナイフで編んだ髪を切る。役人は床に崩れ落ちるが、すぐに飛び起きミミに向う。ミミはさからわず役人を自分の胸で受け止める。
彼らは抱き合い役人は至福の満足をしたうめき声を上げる。(最後のクライマックス)

願いを満たした役人の傷口から血が流れ始めだんだん弱ってゆく。そして苦悶の後、息絶える。
(34’00)


最近の演奏会に戻る

ホームに戻る