1998年4月25日新響ニュースより
1.全体の構成は?
ふつうのオペラでいうと4本でひとつの楽劇という構成、つまり連日上演しても4晩かかるというとてつもない長さです。
前夜祭「ラインの黄金」全1幕4場構成‥‥約2時間(幕間含まず、以下同じ)
第1夜「ワルキューレ」全3幕‥‥約4時間弱
第2夜「ジークフリート」全3幕‥‥約4時間
第3夜「神々の黄昏」全4幕(序幕+1〜3幕)‥‥約4時間半強
ラインの黄金が前夜祭と名付けられているため、「ワルキューレ」は第1夜と呼ばれますが実際は2番目の物語、「ジークフリート」が3番目、「黄昏」が4番目です。
2.登場人物は?
全部で34人の歌手、および合唱団が登場します。
4夜続けて登場する人物がいないのが特徴(歌手にとっては幸い?)かもしれません。
誰が主人公か、解釈しだいという面も。一般的には物語のはじめの頃はヴォータン(神々族の長)、アルベリヒ(地下に住む小人達であるニーベルング族の支配者、ラインの黄金を奪い世界征服の魔力を秘めた指輪を作った張本人)あたりが主要な人物で、その後ブリュンヒルデ(ヴォータンの愛娘、ワルキューレの一人)やジークフリート(神々の長ヴォータンの血を引く人間の英雄)の登場により物語の中心は彼らへと移ります。
〜登場人物の系譜〜
異母(異父)兄弟・双子、近親相姦、姦通、兄弟殺しなどが多くこみあっています
この他に婚姻関係のない登場人物として、ラインの乙女3姉妹、火の神ローゲ、巨人2兄弟、森の小鳥、ギービヒ家の家来がいます
3.完成に至るまでの経緯は?
・4部作すべての完成には26年(!)を要しています(ブラ1並みですね)。
・ワーグナーは台本(歌手が歌う歌詞やト書きなどの演出上の指示)まですべて自分で書くという、音楽史上類のない作曲家でした。
・巨大な4部作のそもそもの発端は、1848年に彼が書いた「ジークフリートの死」という台本。これは現在の『神々の黄昏』の原型となります。ここでの主人公ジークフリートの出自を明らかにする必要から、物語がさかのぼるかたちでついに4部作にまで拡大したわけです。
〜台本成立まで〜
台本が書かれた順序 | 原題(すべてワーグナーの自作) | 最終結果 | |
↓ | 「ジークフリートの死」 | マ | 『神々の黄昏』 |
↓ | 「若きジークフリート」 〜ジークフリートの生い立ちを示す |
マ | 『ジークフリート』 |
↓ | 「ジークムントとジークリンデ、ワルキューレの処罰」〜ジークフリートが生まれたわけを示す | マ | 『ワルキューレ』 |
↓ | 「ラインの黄金の掠奪」 〜ジークフリートの両親が生まれるまでの前史を示す |
マ | 『ラインの黄金』 |
・この4部作の台本が1852年に完成した後、今度は物語の順番どおりに『ラインの黄金』から作曲に着手。『ワルキューレ』が続き、『ジークフリート』の第2幕まで来て、何と彼は別の2つの作品(「トリスタンとイゾルデ」と「ニュルンベルグのマイスタージンガー」)を書きたくなって『指環』の作曲を中断してしまいます。12年の中断を経て『ジークフリート』の第3幕、『神々の黄昏』が完成したのが1874年。
・12年の中断の間にトリスタンとマイスターという2つの大作をはさみながら、それを感じさせない1つの作品としての一体性をこの『指環』が保ちえたことは驚くべきことです。この点で、4部作を通じて使用される100以上の共通の「ライトモティーフ〜示導動機」が大きな役割をはたしています。
(by T.Y.)